家での作業中、気分転換にちょこっとショッピングセンターに出掛けようと原付で出掛けた。
たまたま今日の気分で選んだ道で。
歩道を小走りに駆けている犬が居るではないか。
テッテッテッテッ。
真っすぐにどこかに向かって走っている様子。
だが、首輪をしていない。
飼い主さんも居ない。
この道は車が割と行き交う道路なのだ。
<放し飼いの犬でお散歩中なのかしら>
テッテッテッテッ。
ワンコは歩道を楽しげに走っているが、飼い主さんはやはり居ない様子。
どうしよう。
気にせずに行っちゃった方がいいのかしら。
車の行き来が気になっていたので原付を停めて「わんちゃん」と声を掛けてみた。
すると、わんこはこっちに気づいて人なつこそうに駆け寄って来たのだった。
ワイヤーフォックステリア。ノラ犬じゃぁなさそうだ。楽しそうな顔で近づいて来たと思ったらまた行ってしまった。
テッテッテッテッ。
迷わずに真っすぐ走っているが、君はこの辺りの仔なのかい?メスでまだ若い犬のように見える。この辺りでは有名な放し飼い犬なのかしら。
車が行き交う道路。
<今、家に帰っている途中なの?>
<どこに行くの?>
事情はわからない。だが車の行き来が気になってしまうので、興奮させないようにそ~っと尾行をしていた。
すると今度は広い駐車場に入っていった。
そして。
そのまま隣りの畑に侵入したかと思うと・・・。何かを見つけたようで、パクパクと食べていた。<あっ、拾い食いはだめ!>何を食べているのかしら・・・。そして嬉しくなったのか畑の中を猛烈な勢いで興奮して走り回るのだった。
う〜〜〜ん。困ったなぁ。
犬は帰巣本能がある。だからきっと私が何とかしなくても自分の家に帰れるよね。ねぇ。大丈夫よね。と、思ったがその時点でワンコは片側2車線の大きな道路にかなり近い場所まで来て居た。
<もし、あの2車線の道路に出てしまったら・・・>
このまま私が去って、もし轢かれてしまったら、私はず~~~っと後悔をする気がする。かと言って、私に抱っこ出来る体重でなく、車に乗っているわけでもなく、首輪を持っていない。どうしよう。
と、思っていたらワンコは畑から出て来てまた今度は別の道にテッテッテッと小走りに駈けて行ったのだった。
<あっ、あぶない!>
走って来る車の前をテッテッテッと駈けていくワンコ。運転手さんは止まってくれたが、”放し飼いにするんじゃねえよ”と明らかに私の方を睨んでいた。
す、すみません。
あかん。
轢かれる可能性がやっぱりある。
またそぉおおおお~~っと尾行をする。
どうしていいかわからないまま、車が来た時だけなんとか車と距離が出来るように守っているつもりなのだが、いつまでもこうしていられるわけじゃなく・・・。そうこうしているうちにまた交通量の多い道路に向かって行こうとするワンコなのであった。
テッテッテッテッ。
わんこ、また別の駐車場に入る。そこは運輸会社の駐車場ででかい車が出入りをしている。だ、だれか捕まえてもらえませんか。
「あっ、そうだ」
「警察に電話をすればいいのか」
そこで警察署に電話をすることにしたのだった。
駐車場の敷地から出ないように見張りをして待つ。近くに居た若いママとぼくちゃんが参戦してくれたのでしばし見張り番。おいでと呼べば人なつこくこちらにやって来る。私には重くて抱っこ出来ない。無邪気な性格なのと爪が綺麗に切られているので、大事に飼われているに違いない。
「お家を探してあげるからね」
10分ぐらい経ってパトカーが到着。
一人の警察官がワンコを保護すべく近づいてもらったのだが・・・。今度はわんこが興奮をして走り出し、通りを渡った場所にある公園に入って行ったのだった。警官が捕まえようとすると逃げ、あともう少しというところでまた逃げ、そうしているうちに向こうの方でサッカーをしている男の子達の中に突進して行ったのだった。
<子供を噛んだりしないで。お願い・・・>
ところがそのわんちゃん。
男の子達が遊んでいた何個かのサッカーボールのうちの一つを、追いかけていき、奪ったかと思うとものすごく興奮をしてドリブルをして一人遊びを始めるではないか。ボールを一人で飛ばして追いかけてまたドリブルをして・・・。ものすごく機敏、そしてめちゃくちゃサッカーが上手い。
が、ヒヤヒヤヒヤヒヤ。
結局、しばらくしてようやく隙を見て警察官が捕まえてくれ、そしてパトカーに乗せられてワンコは一週間飼い主を待つ事になった。
なんて愛嬌のある可愛いワンコ。
1週間経って飼い主が見つからなかったら保健所に行きますと言われて後先考えずに、保健所行きは避けたいので飼い主さんが見つからなければとりあえず電話を下さいとお願いをした。
気晴らしに出掛けるつもりが1時間以上経っていた。
その後、ショッピングモールに行ったがなんだか楽しめず・・・。
知らない場所でケージに入れられて一晩過ごすだけでもストレスになるだろうなぁ・・・だとか、この辺りのどこかのわんちゃんだと思うのだけれど、チラシって何枚撒いたらいいんだろう・・・だとか。マイクロチップが装着されているとしたらそれは警察にまたそのことを伝えるのがいいのかなぁ・・とか、保護場所には餌があるということだったけれど、この暑さで腐っていたり古いものじゃないのかしら・・・とか・・・。
1週間経って・・もし飼い主さんが見つからなかったら・・・.
引き取って面倒を見れるのかしら。
ダンボは?
なんて思うんだろう。
いろいろ考えてぜんぜん楽しめなくなって家に帰ることにしたのだった。
帰り道、犬を探している人に出会えるかもしれないと道を選んだ帰った。
はぁ~~あ。
早く家に帰れますように。
と、ぼんやり考えながら夕飯の支度をしていたら電話が掛かってきた。
無事、飼い主さんが見つかってお迎えに来てワンコは連れて帰られたのだそうだ。
ワンコは普段、室内で飼われていてどうも気づかないうちに外に出てしまったらしい。
飼い主さん、警察に連絡をするのが早かったと思う。いやぁ〜〜よかったよかった。
それにしてもお騒がせなわんこちゃん。
とっても楽しそうにお散歩をして、外の世界を思い切り満喫していたね。
でも危ないからもう一人で冒険するのはやめようね。
誰かがとっても大事にしているわんこちゃん。
ダンボとはまた全然性格の違う犬だった。
そして私はダンボをもっともっと大事にしようと思ったのだった。