夕方、父しげおっちから電話がかかってきた。
昨日は道を間違えて、買い物にえらいロスタイムを作ってしまったが、なんとか帽子とカードを送ったところ、ちゃんと今日それが父の元に届いたらしい。
「あんなもん、被ったことないわ」
最初に父に贈ったものは確か似顔絵であった。四角いアルミの弁当箱のような顔の輪郭に、シーサーのような鼻、頭髪のハゲ具合いなど、非常に似た似顔絵に出来たと思ったら、あの時も「全然似てへんわ」と言われたのだ。
以来、私は長年に渡り「あんなもん、よう着んわ」「あんなもん、どうやって使うねん」「あんなもん、食ったことないわ」と、数々の贈り物に「あんなもんシリーズ」のコメントをもらってきた。
しげおっちは私が物心ついた時から、”ダンディ”から遠くかけはなれていた。
いつか加山雄三に成長するのかと思ったこともあったが、それはなかった。
でも私は知っている。
普段もへそまがりで、あと私に対してダメ出しばかりをしているしげおっちなのだが、「嫁に行かない」ことに関しては一度も口にしたことがないのだ。
爺さんは「ワシが死んで一人ぼっちになったら娘が不憫」という考えよりも「娘が嫁に行ったらワシが一人寂しくて不憫」の方がプライオリティが高いのである。
もしかしたら元旦に願うことや七夕の短冊に書く願いは、「ワシが死ぬまでミキが嫁に行きませんように」なのではないか。
・・・・。
むむむむ。
しげおっちの生き霊のせいで・・・。
はい。
今年もお父さんのプレゼントは一番のお願いを叶えましたよ。
あんまり顔は出せていませんが・・・。
嫁に行くより寂しくないでしょう。
私もおかげさまで元気に過ごしています。
しげおっちは近所の嫌われ者。
私はもう嫌いを通り越した。
お父さん、おたんじょうびおめでとう。
そんなに毎日がつまらんとばかり言わないで。
具合いが悪いという話ばかりしないで。
お父さんだけでなく、みんなにだっていろいろあるんだよ。だから毎日をなるべく明るい方に顔を向けられるように、それはお父さんが自分でしなきゃどうしようもないんだよ。
3月に一度私は電話で泣きながら訴えたが、
結局父は変わっていない。
まぁ、いっか。
自由に、のびのびと。
どうぞ長生きして下さいね。