今日はパリからグルノーブルに移動をする。今日はライブに参加させてもらうので、いつものような失敗は出来ない。まずは列車に乗り損ねることのないよう1時間早めにホテルを出てパリ・リヨン駅に向かった。
ここから「TGV」という日本でいう新幹線に乗るのだが、ここパリ・リヨン駅は構内が広くまたチケットなど改札のシステムが日本とは違うということで、勝手がわからず苦戦した日本人旅行者は多いみたいなのだ。
フランスに来る前に、私も旅のブログを書いている人達の文章で注意点などをチェックしていたが、百聞は一見にしかずとは本当にこのことで、今のところ全てのことにおいて実際に経験してみてやっと書いてあったことが理解出来たという後追い状態になっている。
実際に駅に着くとやはり何かしらわからないことが浮上してくる。つたない言葉と親切に教えてくれる人達のおかげで、第一関門であった「乗る予定の列車に無事に乗ること」が出来た。
数日前に魔女と交渉して手に入れた席はclass1の席。魔女がくれたわけでもなく私がクレジットカードで買ったただの高いチケットなのだが、グリーン車的乗り心地で電源の差し込み口までついていて椅子もフカフカで気持ちがいい。
ところで。
今日私はグルノーブルに行くのですが・・・・。
事前にわかっていたのは、東日本大震災支援チャリティライブに生方さんと一緒に出るということだけ、場所も時間もそれから生方さんと2人だけなのかバンド構成なのかも全く知らないのだ。山の上の方に行くとだけ会話の中で知ったので、自分の頭の中でつたない山の絵が浮かびそこに小屋があるのを想像してみたりする。
だが。
実はTGVに乗ってから、モヤモヤが私の心をうす~く覆っている。
というのも、パリに来てまもなくに一度連絡をし合って以降、生方さんと連絡がつかなくなっているのだ。
どうしちゃったんだろう。
もう向かっているんですけど。
列車の到着時刻も連絡したんだけどなぁ。
駅に着いたら待っていればいいのかしら。
TGVに乗ってからもメールしてみたが返事がないまま、グルノーブルに近づいていきいよいよ不安になってきたのだ。
しばらく暗かった。
暗かったが。
ようやく「ま、会えなかったらその時はしょうがないか」と気持ちの整理をつけ始めた頃に生方さんから電話があった。どうも私からのメールは紛れてしまっていたらしい、加えて私は私でfacebookを通じてもらっていたメールに気づいていなかったとその電話で知ったのだった。
ホっ。
ヒヤヒヤのあとに幸せはやって来る。
よかった。よかったのだ。
グルノーブル着。
ホームに生方さんが迎えに来てくれた。生方さんとは多分15年ぶりぐらいになるのだと思う。私にとっては大先輩の音楽家なのだが、温厚な人柄な方なので緊張せずにいられる方なのだ。最近は楽器は「テルミン」を弾かれることが多いみたいで、ピアノパートは今日は私が演奏させていただく。ということで、ちょっとピリっと緊張する。相変わらず今日はどこで誰と何時から演奏をするのか知らないが、ホテルにチェックインしたあとで生方さんのフランスの友人パスカルさんの車で「どこか」に向かって移動をした。
今日はフランスに来て以来初めての雨。
車窓からは田園風景もなくなり高い山が見える私の抱いていた「フランス」とは全く違う風景だ。
山を登っていく時の景色は六甲に似ている。少し離れた山の中腹に古城が見えていた。
グルノーブルから30分程走った山の上の方の小さなホールが今日の会場で、今日は4月から開催されていたグルノーブル日仏協会主催の東日本大震災支援チャリティコンサートの最終日だということをようやく知ったのだった。そして出演はグルノーブル在住の日本人の音楽家の方々、最終回の今日と偶然旅行の日程が合ったということで私もお仲間に入れてもらってのコンサートとなったのだった。
お琴のSちゃんにピアノのKさん、バイオリンのYさん。それに車でここまで連れてきて下さったパスカルさんの奥さんもみんな日本人。みなさんご縁があって今はフランスで暮らしているのだそうだ。
そんな選択肢についてはこれまで私は思いもつかなかった。
例え思いついたとしても行動には移せなかったと思う。
すごいなぁ。素敵だなぁ。
生方さんとのライブは生方さんと私とのユニット形式。テルミンとのコラボは初めてだが音程がフワフワした自在な楽器とのセッションは個人的に好きなものだった。それに生方さんの曲は聴いた時はシンプルな印象があるのだが、演奏がやけに難しい。普通のコード進行やラインに行かないのでコードネームがつかない小節が結構ある。演奏中はだから気が抜けずとても難しかったが、独特の世界観がある生方さんの曲を私はとても好きになった。
コンサートが終わるとパスカルさんの家でのホームパーティにそのまま私も参加をした。
実は今日コンサートをした場所と、そこから近いこのパスカルさんの家のある此処がどこなのか、まだ知らない。グルノーブルから車で30分ぐらい山を上がった辺り。生方さん以外はみな初対面の人ばかり20名程の中に混ざって、キッチンでお手伝いをしたりお料理を食べたり笑ったりしている私は一体誰なのだ。自称人見知りの私はどこへ行った。
フランスに来て「美味しいもの」にありつけていなかったが今日は久しぶりに「美味しいもの」を一杯いただいた。
友達も出来た。
思っていた一日とは全然違っていた。
一昨日は「野宿することになるかも」と焦り、今日は今日でパリからの移動中のTGVでは生方さんと連絡が取れないことで、「グルノーブルに着いても誰とも会えないかも」と暗くなっていた。
知らない景色も旅の素晴らしい思い出になるが、やはりそこに人との出会いがあればもっともっと素晴らしい思い出になるのだとしみじみ思った。
ところで。
此処は何と言う地名なんだろう。
ここ、どこ。
結局知らないままなのだが・・・・。
ま、いいか。
他でヒヤヒヤ緊張している旅だから、アバウトで構わないところは思いっきりアバウトなままでいいのだ。