朝、グルノーブルを出発する前に生方さんがグルノーブルの朝市を案内してくれた。
野菜や果物、ソーセージからお花まで、丁度日本で言えば”縁日の屋台”のように店が出ている。地元の人達が普段の生活食材を調達していて、生方さんも行きつけの店があるのだそうだ。歩きながら店の人と挨拶をかわしたりしている。ここでは私は美味しそうなチェリーを買った。
グルノーブルのマルシェの次に、アラブ人の朝市を案内してもらう。
ここは日用品から洋服、貴金属や雑貨小物、骨董品に布地もあって、フリーマーケットの会場のよう。たくさんのお客さんが来ていた。
今日は昨日とは変わって天気がいい。グルノーブルはアルプスに近く街の景色も「フランス」というより「スイス」のイメージ。一昨日まではすごく暑かったそうだが、今日は日本の11月のようなひんやりとした澄んだ空気だった。
朝市を楽しんだ後、駅へ向かう。
道中、今回のこれまでのドタバタな旅の話を生方さんに聞いてもらう。すると生方さん曰く、それでも私の旅は何事もなく順調な方で、”乗るはずの列車”が、今日は走らなくなって電車のかわりにバスが走ることになったりすることもよくあることらしい。
もしも日本でそんなことがあったら大変な事件だ。
早めに駅に着いたのでカフェでお茶をする。たった一日だけのグルノーブルだったがとても思い出深い時間になった。思えば今回の旅は”どこか海外旅行に行きたい”という漠然とした気持ちがスタートだった。ツィッターで「杖の一人旅でも大丈夫な街はありますか」とつぶやいたところ、グルノーブルは人が親切であることを生方さんが教えてくれてそれで急に「行ってみたい!」と興味を抱いたフランスなのだった。
来てよかった。名残惜しいです。
いいや、また来ればいいんだわ。
そうして電車の時刻も迫って来たのでグルノーブルを後にするべく改札へと向かうのであった。
ところで、どのホームに行けばいいんでしょうか。
”何番ホーム”を意味するアルファベットのホームをさっきから探しているのだが、それがないのだ。どこのホームなんだろう。
と、思っていたら「もしかしたら!」と生方さんが声を上げて急いで駅員さんに何かを聞きに行ってくれたのだった。
まさかのまさか。
さっき話に聞いた「乗るはずの電車が走らないことになってかわりにバスがその区間を走る」ケースなのだった。
出発まで何分。急げ急げ。バスってバスって、どこから出ているの。
驚いた。一人だったら機転は利かなかった。そのまま駅で電車を待ち、電車はもちろん代わりのバスにも乗れず、移動手段を失ってこれまた半泣きになって途方に暮れていたはずだ。
楽しかったグルノーブルでの一日。生方さん、ありがとう。
無事に代替バスに乗って、今日の行き先エクスアンプロバンスの途中駅、Valenceへと向かったのであった。
ヴァランス駅からはマルセイユ経由になる。いつからか外の景色のたまにポツっと見える集落が南仏独特のオレンジがかった壁と屋根の家並に変わっていた。
マルセイユ経由でプロバンスに到着したのは時刻で言えば夕方。だが今は日が長い時期なのでまだ1時過ぎぐらいなのかなと思うような日差しだ。ここから今日から泊まるホテルにタクシーで向かったのだった。
フランス旅ももう後半となり、到着してから続いていた時差ボケもようやく落ち着いて体調的にも身軽になってきた。ホテルは思っていた以上に駅から遠く、しかも最後は山道をのぼった所にあるが、敷地内にレストランやプールもあるホテルだから食事はもう街に出ずにここで取ればいい。
そうだ、今日こそムニエルを食べよう。
ホテルの階段の所に張ってあるレストランの写真には、私が食べたかったような白身魚のポワレなどの洋食メニューが写真で載っていた。
よ〜し。
今日はレストランで美味しいものを食べるぞ。
そうしてとてもウキウキしながらレストランに向かったのであった。
「ボンジュ〜ル」
もうレストランは開いていますか。
そう尋ねたのだが・・・・・。
なんと。レストランにコックさんとウエイターの男の子は居たのだが、どうも困った様子で私に何かを話している。わかりやすく説明をしてもらうと、今日は日曜日なのでレストランも休みだということだった。その時にフランスでは日曜日は店が休みになることが多いということを思い出したが、それがホテルに泊まっていても同じだったとは思いもしなかった。だから今日はムニエルどころかコーヒーしか出してもらえないということなのだ。
ニッコリ笑って明日は開いていますと言われたが・・・・。
うむむむむむぅうううううーーーーーー。
私はお腹が空きました。今回の私は修行や断食の旅ではなく、ひたすら「ゆる〜いいい加減な旅」がしたかったのです。ある意味、食べ物にありつけないというのは「ゆる〜いいい加減な旅」とも言えるが、今日こそはムニエルがあると自信さえ持っていただけにレストランも休み、売店などもないと知ってガックリ来たのだった。
およよ。
およよーーーーーーー。
しばらく部屋に戻ってジっとしていたが、あめちゃんを食べて空腹をしのぐと思うと急に侘しくなってきた。そうして私は一人歩いて山をおり、知らない道をひたすら歩きその後小さな商店街まで1時間ぐらい歩き続けたのであった。
そこで一軒だけ開いていた洋菓子店でシュークリームを買った。
本日の夕飯はシュークリームだった。
”夕飯にシュークリーム”はやっぱり違和感があった。
食べながら<どうして夕飯がシュークリーム?>と自問した。
かつてマリーアントワネットが「食べ物がなければ、ケーキを食べればいいじゃない」と言ったその言葉を思い出したのであった。