友人の千宝美ちゃんの行きつけの喫茶店が閉店することになったそうで、今日はそのお店で千宝美ちゃんのプライベートライブがあった。
S駅を降りてすぐの角っこにある建物の2階に、その喫茶店はあった。白い壁とこげ茶色の木が印象的な落ち着いた雰囲気の店内。私は行きつけの喫茶店が欲しくて、今の家に住んで2年半探しているが、喫茶店自体がまずウチの近くにはない。店内に入ってまず最初に、もし自分が近所に住んでいたらきっとこのお店に通っていたなぁと思ったのだ。
コーヒーの香りがしてきて、店内の灯りが少し柔らかで・・・。
千宝美ちゃんは大阪から東京に引っ越してきてからずっとこのお店にお世話になってきたのだそうだ。思い出だけでなく、この店でたくさんの曲を書いたと言っていた。
なくなったら、かわりになる場所なんてそう簡単に見つからない。
いや、簡単には見つからないのではなく、同じ存在のものはもう見つからないだろう。
居心地の良さというのは、コレだけが理由ってことはない。きっといくつもの理由が重なっていて、それらが全体でその場所の温度を作っている。その目に見えない温度が、自分の着ている上着を無意識に脱がせてくれるものなのだ。
そうか・・・。
お店、なくなっちゃうのか。
寂しいよね。
MCでお店との思い出話が語られ、自分もその景色を想像して一緒に思い出を振り返ってみると、コーヒーの香りと思い出の匂いが私にも少ししたような気がした。
大事な人と同じぐらい、大事なお店はなくなったら後で尾を引く。
振られたわけでもないのに、苦い別れをしたわけでもないのに、更には辛いと泣き叫ぶこともなく日常が普通に流れて行くのにもかかわらず、でもその中で長い時間小さくぽっかり穴が開いた状態になる。
それでもそんな想い入れのあるお店があるということは素晴らしいことだなと思う。自分が自らの上着を脱ぎたくなるような店なんて、そんなにどこにでもポコポコとあるわけじゃない。行きつけの喫茶店を持っていない自分には、その豊かさを羨ましくさえ思う。
グルリと店内を見回した。
よく話を聞いたらお店はもう先月末で店を閉じたのだそうだ。
私にとっては最初で最後のお店。
だけど、今日私もここに居られてよかった。
何故かしら言葉に出来ないあたたかい気持ちに包まれていた。