投稿日:2008年11月21日

2008年11月21日

金曜日の夜は「太陽にほえろ」。
毎週楽しみにしていたのに、一度だけ見られなかった回があった。
その日の私は何をしたのかもう忘れてしまったのだが、母にえらく叱られて「出て行きなさい」と追い出されたのだ。男の子でも家から追い出されることなんて、あまり聞かないのだが、とにかく私はやんちゃをして母の怒りを買うことが多かった。
しかし、納屋に入れられたことはあったが、夜に門の外に出されるのは初めて。小学生だったからそりゃぁそん時間に外に出たら心細い。
”追い出されちゃった”
隣りの空き地にしょうがないのでしゃがんでいた。
”おばけ、出ませんように”
”おなか空いたな”
”いつか家に入れるのかな”
”あーあ。”
”こんなはずじゃなかったのにな”
どれぐらいしゃがんでいただろう。近所の足立さんが犬の散歩で、この空き地の前を通り掛かったのだった。足立さんは母より少し年輩のご婦人で、挨拶しかしなかったが、言葉の感じや表情から「優しくて賢いおばちゃん」という印象があった。
夜に空き地の真ん中でしゃがんでいる姿はさぞ滑稽だったと思う。
「みきちゃん、どうしたの」
黙ってうつむいていたら、それ以上のことは何も聞かずにお家に帰りましょうと言って足立さんは私を連れて、家のインターフォンを押してくれたのだった。
「はい」
母が出ると、「みきちゃんが外にいらっしゃったから」と柔らかい口調で足立さんは言った。
「まぁ、すみません」
母は恐縮して慌てて門の所まで出て来た。
足立さんの振る舞いは終始まるで迷子の子供を送り届けたかのように、実に大人なやり方だった。
足立さんのおかげで、ようやく私は家に入ることが出来たのだった。
家に入ると、テレビがついていた。
時刻は「太陽にほえろ」が半分終わったあたりだった。
その日の夕飯はカレーだったのを覚えている。
一人だけ居残りでカレーを食べ、気まずかった。
「太陽にほえろ」も見れなかったし。
最悪と言えば最悪だったけれど。
その日私は、寒くて暗い空き地でピカピカと輝く女神さまを見たのだった。


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