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投稿日:2007年04月20日

2007年04月20日

小学校4年生の時、アッコちゃんは水泳の飛び込みが出来るようになった。
「すごーい!」
飛び込み台を蹴って思い切りよく、水の中にジャボンと入っていく。
「もっかいやって!」
斜めの角度で入っていく姿は、子供ながらにいいフォームだなぁと思った。真っ直ぐ伸びた指先が水を分けるようにし、そして水に沈んだあとでまた数メートル先に今度は水面に斜めに浮き上がって来るのだった。
「すごーい!」
「みきちゃんにも出来るよ」
「そうかなぁ」
最初は見ているだけだったが、アッコちゃんの言葉に勇気をもらって、私も飛び込み訓練を始めたのだった。
飛び込み台の上に立つと、思ったよりも高かった。
思い切って飛び込んだが失敗、腹打ちになった。お腹は赤く腫れる。鼻から水を飲んでしまうので、鼻や気管も痛くなる。しぼんでいく勇気と出来るようになりたい気持ちが不安定に行ったり来たりして、そうするとやはり上手くは行かない。何日も飛び込みは成功しなかった。
初めて上手く水に入れたのは、それからだいぶ経ってからだ。シュポーンと水に入った時、水が痛くなかった。水の中で「あれ、出来た」と思ったことを覚えている。
多分、一瞬何かのタイミングで自分の中にあった迷いや不安がマヒして、偶然心と体を水に投げ出せたからだったのだと思う。
それが私のボーダーラインだったのだ。
今日は、山口晶くんのライブ。
定期的に晶くんの後ろでピアノを弾くようになってから2年が過ぎた。
晶くんはアッコちゃんとダブる。
飛び込み台を思い切って蹴るところだ。
まだ一緒にやり始めの頃、私には腹打ちを恐がっていたあの飛び込み台での時と同じ緊張があったように思う。
晶くんはいつも先に飛び込んで行った。
音楽の中へ。
それは見ていて、気持ちがよかった。アッコちゃんの飛び込みを見て「すごーい!」と手を叩いた時と同じ気持ちだった。
私はアッコちゃんが居たから、飛び込みが出来るようになったのだと思う。自分の訓練が実ったということが一番の理由ではなく、「アッコちゃん、すごい」の感動が少しずつ私をそちらに引っ張って行ってくれたからだ。
小学校6年生の時、私は学校対抗の水泳大会でリレーの2番手の泳者として選ばれた。他を抜かしたり差をつけたりする力量は自分にはないということは冷静に思っていたので、もらった順位は何が何でも繋げるぞと闘志を燃やした。
アッコちゃんと一緒にリレーを泳いで、優勝をした思い出だ。
晶くんは今日も思い切って飛び込み台を蹴る。
確認をしなくてもいつもそうだから、私は自分の足下だけを確認する。
今日の距離は30minutes。
ライバルは昨日の私。
追い越して行きたいな。
晶くんとの水泳はすごく楽しい。
もっと長い距離を泳いでみたいね。
いつかフルステージをやりたいね。
息継ぎで水面に顔を上げたら、晶くんの泳ぐ姿がすぐ隣りに見えたのだった。