丁度一週間前、東京では大雪が降った。
雪はまだ残ってはいるものの、通常生活に戻った東京なのだ。
だが、まだ興奮している人はいるらしい。
仕事帰りに乗ったタクシーで。
先週も運転手さんが饒舌で、乗車している間じゅうずっとしゃべっていたが今日の運転手さんもとってもおしゃべりだった。
「先週はほんとに、雪がすごくてっ」
「もう〜大変でしたよ!」
雪でも大丈夫なタイヤを履いていたとしてもこの間の大雪の中の運転は、タクシーの運転手さんたちも大変だったと見える。先週の運転手さんも運転しながら「ほら!今もこれ、滑りましたよ。道路がつるっつるで!」と道路がいかにいつもの状況と違うかを繰り返し興奮してしゃべっていたっけ。最後の方は聞いている私の方が同じ内容にくたびれてきて生返事になっていたが、運転手さんは「お客さんが降りちゃったら、もう話をする相手が居なくなっちゃってさびしいです」と言っていて、”スノウハイ”状態で声も心なしかうわずっていたのだ。
今日の運転手さんも、特に私から話を振ったわけでもないのに先週の大雪の話を振り返ってどれだけ大変だったかをうわずった声でしゃべり続けていた。
「もう〜晴れ着の女の子なんか、可哀想で可哀想でっ!」
「渋滞もひどくって全然車なんか進まないしっ!」
運転する側にしてみたらあの大雪はやはり、運転するにはかなり過酷な状況だったのだろう。
「降った日は降った日で大変なんですけどもねっ!」
「翌日とか、これがまた危ないんですよっ!」
うんうん、それぐらいはわかります。だって原付に乗るのは危なくて、だからあれからタクシーのお世話になっているんですもの。
「はじっこによけてある雪が、ちょっとずつ溶けてきて、それがまた凍っちゃって。それで自転車とか、バイクがツルツルって滑ってこっちに来たりしてっ」
「これがまた危ないったらありゃしないんですよっ」
運転手さんは話に興奮をして、一つ向こう側の青信号だけを見てノンストップで赤信号になっている交差点を通過した。
恐ろし過ぎて注意出来ずに「ぶつからないで!」と一瞬お祈りをした私に気づかず、雪の恐ろしさについて話をやめなかった。たった今自分があり得ないような信号無視をしたことに気づいてはいなかった。
雪も怖いが、興奮した人も恐ろしい。
<怖いよ、運転手さん>
タクシーを降りたらホっとした。
一週間前の大雪の日とあまり変わらない危険度数であった。
雪に慣れていない都会の冬。早く本当の意味での平常運転に戻って欲しいのである。