朝、ゴミを出しに外に出たらお隣りの家のKさんが丁度玄関を出たところだった。
「おはようございます」
Kさんはご主人が亡くなられて今は一人暮らしをされている。多分70代ぐらいのお年ではないだろうか。小柄で最近は杖を使いながらの外出をされているので決して健康体ではないのだが、それでも私が入院をして退院をすると買い物に出なくていいようにと食べ物をいろいろ下さったり、「元気?」と尋ねてもらったりしていて、とてもよくして頂いているのだ。
たまに立ち話をすることがあって、今日はKさんに「お元気?」と尋ねられたところから話は始まったのだった。
「おかげさまで、すっかり元気に過ごさせてもらっています」
そう答えたのだが、昨日の夜中にKさんは実は私が具合が悪くなったのではないかと心配でドキドキするような出来事があったということだった。
「だったらよかったわ。実は夜中にね」
それは昨夜の夜中のこと。
Kさんの家の猫が台所で鳴いているので何かしらと台所に行ってみたところ、チカチカと電気が点いたり消えたりしているのが窓越しに見えた。最初は近くの電信柱の電灯が切れかかっているのかと思ったらそうではない。いつもは消えているはずの私の家の西側の窓から、このチカチカする明かりが見えたのだった。
<もしかして、具合が悪くなったのかしら>
<SOSのサインなのかもしれないわ>
今は夜中の3時頃。Kさんは急にドキドキしてきて、私の様子を見に行こうか、いや夜中にインターフォンを押しに行っていいのだろうかと焦っていろいろ方法を考えていたのだそうだった。
そして、しばらくオロオロしているうちに、「あら・・・・?」「もしかしたら・・?」
冷静に考えて「クリスマスツリーの明かり?」という風にチカチカの答えがわかったのだそうだった。
Kさんの勘違いだったという話で二人で大笑いしたのだが、まさか仕事部屋にもクリスマスツリーを置いて明かりをつけていたら、それが「SOSのサイン」に間違われていただなんて思いもしなかった。
私は2年前に急に動けなくなってしまい、救急隊員の人達に窓から侵入して助けてもらったことがあった。多分そういう前歴があったのでKさんはそのような心配をしてくださったのだと思う。
昨夜Kさんが胸を痛めてオロオロされていた時、私はと言えば完全に熟睡していた頃だ。
「私ったら、早とちりだから」
小柄なKさんが「アッハッハ」と大きく笑った。
私も大きく「アハハハ」と笑った。
あったかくて優しい話。
私は大人になり、子供もいないのでクリスマスの微笑ましいエピソードにはもう縁がなくなったと思っていたが、思わぬあったかくて優しいエピソードが今年不意にやってきたのだった。