日用品を買った帰りに近くにあるパン屋さんに立ち寄った。
「あぁ、食パンはね。今日はもう売り切れちゃったんだよね」
店のおじさんがこう言った。
そっかぁ。
「あー、でもイギリス食パンならあるよ」
あら、だったらそれを頂くわ。私はどちらかというと食パンよりちょっと粗い食感のイギリス食パンの方が好きなのだ。ラッキー。
「じゃぁ、イギリス食パンをいただいて帰ります」
おじさんは手袋をした手で山形の食パンを一つ取り上げ、「でもねぇ、まだ焼きたてだからこれはスライスは出来ないんだよね」「いいです。家で切りますから」
パン好きが高じてパン屋さんでアルバイトをしたこともある私だ。焼きたてがスライス出来ないことや、冷めるまでは袋は開けておいて下さいねとビニールの口をとじないでおくことも、<美味しいパンを美味しく食べて欲しい>作り手の気持ちであることは、少しはわかるつもりだ。
なのに。
あなた。
「まだあったかいからビニールじゃなくて、紙に包みますよ」と、大事にパンを包むその白い紙を取る時に指を舐めましたね。お札を数える時や、雑誌のページをめくる時によくやる「指、ペロっ」を、あなたは今しましたね。
オヤジのその唾液はいいのか。
私は指ペロをしたおやじさんの指で取った紙でパンが包まれるのを見ながら、とても残念な気分でいっぱいになったのだ。
「袋は冷めてから入れてちょうだいね」
美味しさ度数、急降下。
家に帰るとまず一番にその白い紙をパンと私の指に触れないようにそぉおおお〜〜っと外して、そして捨てたのだった。
んもう!
いや!
美味しいパンを食べるために、私がその白い紙を一番大事に扱ったであろうことをおやじさんは知らないのであった。