まだ実家に居た頃、私は電車の中でスリに遭いかけたことがあるのだ。
厳密には”結果スラれはしなかったがスリに遭った”ということになるだろうか。その日の夜、私は京都駅からJRに乗って家に帰るところだった。多分10時頃だったんじゃないだろうか。私鉄の阪急は割と混んでいるのだが、京都から大阪に向かうこの路線はそれほど混んでいない。私の家から近くにはJRの駅はないので、普段はほとんど乗らない電車だったのだが、この日は山崎駅で下車してそれから阪急電車に乗り換えて家に帰る順路だった。
車内にはポツン、ポツンと人が座っていた。
乗車率1〜2割ぐらいの空いた電車。
ぼ〜っと座っていたら、私の真横に男性が座ったのだった。
<こんなに空いているのに、なんでわざわざ隣に座るのかしら>
一瞬そう思ったが、まぁこの位置に座るのが便利な人も居るんだろうと思ってそんなに気にもしないで座っていた。
ところが。
私の降りる駅が次、という時になって異変は起こる。
ガタンガタンと電車が揺れる中、モゾモゾと別の動きが身体に伝わってくるではないか。
<もしかしたら、痴漢??>
ふとそう思ってドキドキしながら、モゾモゾの方に目をやると、男の手が私のカバンのチャックを開けている所だったのだ。
<スリだ>
車内に居る人が少ないので、今叫んでも誰も察知してはくれないだろう。
<どうしよう!>
ドキドキで胸が一杯になった時に、電車は私の降りる山崎駅に着いた。
「コイツを捕まえてやる!」なんて強気にはなれず、知らん顔で降りるのが精一杯だった。
男は何を思ったのか、私が改札を出るまで後をつけてきて、改札を出たらクルリと振り返ってまた戻って行ったのだった。
なんでつけて来たんだろう。
で、私もどうして警察に言わなかったんだろう。
あまりにドキドキすると思考って止まってしまうのだ。
確かその頃私は20代前半だった。とてもお金があるようには見えない風貌だったと思うのだが・・・。ええ年をした男の人から財布を狙われたことは事実だ。
空いている電車で隣に座って来る人物には要注意。
スリである場合があるのだ。