3月4日は「ミシンの日」なのだそうだ。
ミシン発明200年を記念して1990年に制定された日で、「3」「4」で「ミ」「シ」、語呂合わせでミシン。
私が子供の頃、家にあったのは足踏みミシンだった。右側の輪っかに手をかけて足元のペダルをタイミングよく、でも思い切りよく踏まないといけない。ちょっと気難しい気位の高い存在が、この足踏みミシンだった。
家庭科の授業は当時小学校では足踏みミシンを使っていた。思ったよりそれぞれのパーツが重くて、ちょっとためらって踏み込んだらすぐに動いてくれないし、かといって思い切って踏み過ぎたら、反動で思ったよりも力強く動く。さじ加減がつかめず、普通に縫えたなんてことはまずない。それどころか、ミシンの暴走で生地がぐちゃぐちゃに縫われてしまうことの方が多かった。
気位の高い気難しいご婦人。
「お前、私に命令しようってのかい。ふん、もっと精進してから出直してきな」
ちょっとだけ目をつぶって許してくれる、というようなことは全くなく私にとっての足踏みミシンはなかなか厳しい先輩のような存在だった。
その後電動ミシンが一般的になり、我が家にあったミシンも姿を消した。数年間は上部のミシン部分だけがなくなり、机として物を置く場所になっていたが、いつの間にかそれもなくなり、今では「レトロな机」として懐かしい足踏みミシンの下部がインテリアに取り入れられている雑誌やなにかで見かけるだけとなった。
おどおどしても駄目。
やみくもに勢いだけでぶつかっても駄目。
音符で言えばテヌートの感じだろうか。
中庸でいながらにしてかつ「これ」という力加減で接したら上手く動いてくれた足踏みミシン。
昔はどこにでもあった。
年上の厳しい先輩は、私が大人になりいつか消えて居なくなったのだった。