「じゃぁまた来週!」
先週いつもと同じように終わったレッスンだったのに、その一週間後に私の担当の生徒さんたちには「今日で最後のレッスンになるんです」と話していた。レッスン前に連絡をしていただいていたので事情は理解出来ているとはいえ、繊細で感受性豊かな子達にまたもや急な環境の変化を強いてしまった。
心細くさせてしまったことが何より胸が痛い。
夢を持ち、明るい未来を描きながらまた不安や心細さも同居する生徒さん達。どの生徒さんも自分が重なって見えるところがあった。
明るく前を向ける時と自信をすっかりなくして途方に暮れてしまう時が、交互にやってくる。一生懸命頑張っていることほど、その揺れの回数も多くなってくる。一途に好きなものがあるということは、そういうリスクがついて来る。夢を追うには体力も気力も、それから持久力も思っている以上に必要なのだ。
家からここまでの距離を通い、毎週をレッスンの為に時間を空ける。お金もかかるし、限られたレッスン時間が終わったら帰り道もまた長い。
だから、ただここにやって来るだけで、どれだけ頑張る気持ちを奮い起こして来たんだろうと、生徒さんがドアが開けて入って来る度に思ってきた。教えるという仕事を単なる仕事でなくさせてくれたのは、いつも一途に頑張る生徒さんの姿だった。
若い人には未知の可能性がたくさんある。どの芽がギュっと伸びるかも想像の範囲では決して収まらない。
頑張って夢を一つずつ叶えて欲しい。
何より笑顔でいられる日が一日でも多くあってほしい。
担当になったことは何かのご縁があったからこそ。
その分やっぱり想いは深くなる。
「じゃぁ、また来週!気をつけて帰ってね」
レッスンが終わると、いつも声をかけた挨拶の代わりに生徒さんからあたたかい言葉をいただいた。彼女達の優しさや思いやりが痛い程伝わってきた。そして、自分が気づけていなかったみんなの感受性の豊かさをあらためて知った。
めまぐるしく、こんなに状況が変わっていった数日間はない。
一昨日、昨日、そして今日。
最後の生徒さんが帰ると、”あぁ、もう来週からはここには来ないんだなぁ”と、静かになった部屋でようやくそんな風なことがようやく頭をよぎった。
片付けをして、いつものようにスタジオを出て、受付のスタッフの男性にお世話になりましたと挨拶をして帰ろうとしたら、誰かが居たので何気なく顔を向けると待ち合いルームの所にお世話になったDさんとNさんとYさんが、忙しい中時間を作って本来の職場から離れたスタジオまで来て下さったのだった。
「あっ」
なんだかあったかくて泣けてきた。
なんとか冷静にご挨拶が出来る自分に立て直そうと思うのに、逆にどんどん泣けてきてしまう。そのまま戻れなくなってワンワンと泣いた。
作品を作るアプローチとは違い、組織の中での一端に携わらせてもらう仕事は他の音楽の仕事とはまた別の楽しさがあった。ただ持論だけでもって自分流のレッスンをするのではなく、どうしたらその組織の役に立てる人間になれるかを考えながら、なおかつレッスンとしてもしっかり成果を上げる。”俯瞰で物事を見ながら組み立てる”という物の見方をこの数年間で学んだ。ここでお世話になれたからこそ真面目に考えることが出来たのだと思う。
たくさん学ぶことがあった。
生徒さんから教えられることもたくさんあった。
寂しいと言えば寂しいけれど、決して寂しいだけじゃない。
感謝を込めて。
とにかくいい出会いがたくさんあった。
あたたかい人の想いに触れ、”頑張りたいな”と思わせてもらった現場だった。