午後、実家に帰った。
実家に帰る時って、みんなはどういう感覚があるんだろう。
私は飛び込み台からエイヤ!と飛び込む時のあのちょびっと勇気が要る感じがしている。もっと細かく言えば、腹打ちをしてグッタリすることを覚悟してプールに飛び込む時の「よし、行くぞ」の感じなのだ。とにかく行く前には「体力温存」をしていくらか余力を持って臨まないといけない。それが毎回の帰省の私の心得なのである。
「ただいま〜。」
家に戻るとしげおっちは寝ていた。
「もう来えへんと思ってたわ」
起きて来ると早速恒例の行事が始まる。
「今こんなにワシは薬を飲んでるねん!」
「ほれ!」
薬の入ったお菓子の缶が目の前にバーンと出て来るのだ。要約すると、”これだけ薬を飲むほどワシの具合いは悪いので、もう言い残すことがないように、せっかく実家に来たのだから心ゆくまで話がしたい”ということで、ここからは時間の許す限り、「ワシのこと」か「アンタにちょっと言うておきたいことがある」のいずれかの2種類の「ワシの話を聞け」コーナーとなるのだった。
「何時までしゃべってええねん」
父は自称”今にも死にそうな”人の割に2時間も3時間も切れ間なくしゃべり続けられることが出来、毎回聞いている私が聞き疲れで吐きそうになってきて、「おとうさん、ちょっとしんどい・・・・」と訴えているのだが、今日もついに私がグッタリして「ちょっとしんどい」と言うまで、延々「ワシの話」は続いたのだった。
グッタリしていると、
「ほんで、アンタは体の具合いはどうなんや」
ですから、
今ご覧の通りグッタリしております。
「どうなんや」
「ちょっと、休憩させて・・・」
「調子、悪いんかいな」
グッタリした私を見て、急に今度は
「しんどい、言うてたらあかんがな」
「もう帰り」
と言うと急にタクシーに配車の電話をし、電話を切ると同時にもう外に出た方がいいと「ワシ」はいそいそと玄関を出て行ってしまうのであった。
「タクシー、まだ来えへんな」と言っていたが、そんな2駅先がエリアのタクシーが1分後にまだ来るはずもない。
”あの人はちょっと変わっとるわ”
父は自分以外の人のことを、ことごとくこう評価する。
だが、私は今日も思った。
父がやっぱり一番の変わりもんである。