帰り道の渋谷駅にて。
京王線の駅構内にあるブティックに私は行きも帰りもよ〜く吸い込まれてしまうのだ。ここは入りやすい店の作りになっていることもあって、私は9割の割合でここに立ち寄っているんじゃないだろうか。
今日は男性店員さんが、プラカードを持って立って何か叫んでいた。
「ただ今の時間、タイムサービスで更に付いている値札から20%オフになります〜」
「9時までにレジに並んで頂いた方までとさせていただきます」
たった今まで普通に駅に向かって歩いていたのに、またもや<え!本当なの?>といった風に吸い込まれて、今日も結局店内に入っていたのであった。
いつもこの店はお客さんであふれている。だが、この呼び込みの効果で更に店内にはお客さんが沢山入っている。しかもレジには既に長蛇の列。
「はい、残り10分となります」
「お急ぎくださ〜〜い」
「9時までにレジに並んで頂いた方、のみ!となりま〜〜す」
<あと10分しかないわ!>
<急がなくちゃ!>
私も単純だが、同じように単純女性がわんさか居る。別に買わずに帰っていいのに、ほぼ全員が10分以内に好きな洋服を探してレジに走るということが課せられたように、店内みな早回しビデオのようにちょこまか動き出した。
「お急ぎ下さい、残りあと5分です」
「まもなく終了致します」
<えっ、ちょちょっと待って!>
「は〜〜い、終了させていただきま〜す」
その言葉に押されるようにして、結局私はよく品物を見ないまま2つ手に取ってレジ列に並んでしまった。レジはその時点で30人ぐらい並んでいるではないか。更に20%オフって言っていたけれど、もうしばらくしたらクリアランスセールでそれぐらい値段が下がるんじゃなかったっけ。
手にした洋服をあらためて見たら、そんなに安くならないことに気がついて、しかもそのうちの1点は「なんで私、これを持っているのかしら?」とちょっと自分でもよくわからない品だった。
駅構内にあるので、駅に向かう人達が不思議そうにレジ列の私達を見る。
「すごい人、何かやってんのかな」
めずらしそうに見ているので、少し恥ずかしくなってきた。
私もなんでこうして並んでいるのか、わからないんですよ。
きっと一緒に並んでいる人達も並んでいるうちにこう思ったことだろう。
バミューダトライアングルよりも磁場が強い、女性が次々に吸い込まれていく京王井の頭線渋谷駅構内にある「I」という店なのであった。