渋谷のエッグマンに、お世話になっているS氏に難波弘之さんのライブに連れていってもらった。
難波さんはデビューして31周年を迎え、ずっと第一線で活躍をされているキーボーディストの大御所。でもライブは初めてになる。もしかしたら山下達郎さんのコンサートで演奏されている所を観ていたかもしれないが、ご本人のMC付きのステージは、これが初めてだ。
難波さんは、私は話をしたこともない。私が「プロって何なのか知らないが、プロになりたい!」と夢を抱いたきっかけとなったキーボードマガジンにも何度となく載っていて、私からすると私が音楽に目覚めた時に既にプロの人だった。
会場には早めに着いたのだが、席は既に満席。お客さんの層は「音楽好き」の人達といった感じで、この中の何割かがキーボードマガジンの読者に違いない。私も今日は難波さんのセットがよく見える位置に座らせてもらうことにしたのだった。
キーボードが6台。今は音源ラックが充実しているので実際に鍵盤楽器を6台使う人は少ないのだが、MCによるとこれはいつものセットより少ないのだそうで、本当はあと2〜3台後ろに置いて演奏するということで、まずそれに驚いたのだ。それだけの台数のセッティングは演奏も大変だが、運んだり組んだり配線をしたり・・・。演奏が終われば今度はそれをバラし、またケースに入れて運び出すわけで、本番だけでなくリハもあるその度にこれらの基地を作っては片付けるなんて、気が遠くなりそうなのだ。
本番ではメカニックトラブルがあって、ライブが始まったが次に進めない場面があった。
こんな時、どうするんだろうと私も息をのんで見守っていたが、「前に一度、本番中にキーボードが壊れて・・・・」というエピソードを難波さんが話す。
<壊れて・・・、どうなったの?>
「仕方ないんで、ライブ中に公開修理をしましてね」
「機材解体して、ハンダで直しました。はは」
客席がドっと沸いた。
機材トラブルが起きても、それが別のライブになるというところがすごいなぁと思う。「じゃ、アカペラでやります」というのではなく、「じゃ、修理しているところをご覧下さい」が、ショウになるのだ。
今日は”ハンダ”ショウにはならなかった。機材はお客さんの目の前で”アンプかな?””本体かな?”と原因となるものを一つ一つチェックをして、結局繋いでいる「コンプ」と呼ばれているエフェクターを取り除くと、トラブルは解決をした。
「コンプなしでも、うん。音は変わらないよ」
メンバー同士の会話も聞こえてくる。ミュージシャンの仕事現場の裏側が覗けるような、お客さんはそういうことも楽しめる層だったので、それもショウとなっていた。やはり一流のミュージシャンなんだなぁと、そんなところでも感じたライブだった。
個人的にはバロックコーナーがとてもよかった。
音源とシンクさせて難波さんが、神業のようなキーボードプレイで心を洗っていってくれる。歌があるものが好きな私だが、久しぶりに「歌のない楽器演奏」を心から楽しんだように思う。
ライブ終演後、キーボードセットの前には携帯カメラやデジカメを持つお客さん達がわんさか集まって機材を撮っていた。難波さんが居なくなったあとで、キーボードセットの前でみんな記念撮影をしているのだ。
「わ、私も写真撮ってきます!」
最初、遠慮がちに写真を撮っていたが、いつの間にか一番前に行ってパシャパシャと撮っていた。
そうして最後はステージの上に勝手に上がって撮っていた。
「きゃー、いっぱい撮っちゃいましたー!」
ご満悦。
キーボードマガジン読者に戻った一日であった。