「はい、吉川さん。お食事です。あらでも今日は寂しいわね〜」
朝ご飯を持って来てもらった時に、そう声をかけられたので、どういうことなのかな?と一瞬理解出来なかったのだが、トレーの上に乗っているものがそう言えばなんだか今日は寂しい気がする。
蓋を開けると、オレンジジュースと味噌汁、そしておかゆが今朝のご飯ではないか。
何かの間違いじゃないのかしら。
そう思ってよく見てみたら「検査用食」と書いてあって、明日の大腸の内視鏡検査の為に前日の朝から流動食に近い食事にかわったのだと理解をしたのだった。
えぇ〜っっ‼もう今日から準備が始まっているの?
今日は何もない一日だと思っていたというのに、唯一の楽しみとなった食事がこんなに盛り下がる内容になってしまうだなんて…。
私、食べれますよ。
ねぇ、大丈夫ですったら。
ガッカリ。明日の検査は朝も昼もご飯抜きなのだ。
こんなんじゃ、栄養失調になっちゃう。
ここんとこの私は、ご飯が一番の楽しみとなっていて、餌を待っている家畜ぐらい生活が単純化しているので、餌がもらえないとものすごくしょんぼりしてしまう。
昼はシャケの入ったお粥とお吸い物。そして絶対普段なら残しているであろうものすごくまずい飴湯も完食をした。
今日は検査は何もないのでゴロんとして過ごす。午後には血液内科の先生が来るということだったので、ベッドの上で時間を潰していた。
夕方、血液内科の先生が来られる。大腸の検査の後は骨髄穿刺の検査があるようで、その説明を少し受ける。17日の採血の結果はヘモグロビンの数値は7.7。私の状態は赤血球の数値だけが低いのだそうだ。
予定では骨髄穿刺は来週の水曜日にということだったが、キシロカインのことを伝えるとそれが急にネックとなって予定についてはうやむやになってしまった。使えない薬があるのは結構大変だ。それだけで当初の予定が延びることに多く出くわすからだ。
夕飯は紅茶とポタージュとクッキー二枚。思いもしない組み合わせに驚き、半ばヤケクソになって平らげた。
あ〜…。明日はいよいよ検査か。
いいや、手順はもう半分ぐらい進んでいる。
ここまで頑張ったのだもの。
予定通り、消灯前に下剤を二錠飲み、水下剤のマグコロールという薬を250ml飲み終えたのであった。
ところが。
それから15分もたたないうちになんだか急に気分が悪くなってきた。
なんか…。
気持ち悪い…。
気のせいかなと思ったがそうではなかったようで、水下剤を一度吐いてしまったと思ったらその後は数回に渡って吐き結局マグコロールを全部もどしてしまったのだった。
「お薬が合わなかったのかもしれませんね」
下剤は他にももう一種類飲んだから、それでいいのかと軽く考えていたら、先生も来て急遽検査の準備はここで中断。明日の検査はもしかしたらなくなるかもしれないと説明を受けて、そのまま点滴を受けることとなってしまった。
検査がなくなるのは嬉しいけど、予定がまた狂うということなんだろうか。
なんだか雰囲気としては、検査中止の方向に行っている様子。その前段階の別の検査で一応腸の方からの出血はなさそうという所見はあったのだそうだ。それでこの先は内視鏡の検査をやめて行くというような形になりそうな、会話からはそんなことが伝わって来た。
点滴をうけたらすっかり元気が戻っていた。
なくなるのかしら?
じゃあ、明日朝ご飯が食べられるのかしら。
やっぱり心は家畜に戻っていた。
そして明日の検査が中止になるかもしれないというだけで、急に検査への恐怖心から解放されてグッスリと眠りにつくことが出来たのであった。