二子玉川の先輩の家に打ち合わせに行った。通称「にこたま」は、お金持ちのマダムがお買い物に来るというイメージがあって、女性誌や午後のワイドショーでも、そういった特集の時によく出て来る街なのだ。
近くには多摩川が流れていて、ここは私の馴染みのある淀川に似ている。河川敷でバーベキューをするグループがいたり、犬の散歩や自転車で堤防を行く人が見れるのどかな一面もある。ドラマや映画で土手のある少し大きな川が背景にあれば、そこはほぼ多摩川だ。そう言えばB#の2枚目のアルバムの裏ジャケットの写真は多摩川土手で撮ったものだ。
”にこたま”は他に似た街がなく、駅の北側はお洒落エリアなのだが南側は温泉街のようなひなびた一角があった。大きな古い食堂があって、道も大きな道路がなく、玉川遊園地の跡に遊技施設が出来たが、それは私にとってのびわこタワーと同じ匂いのするものだった。そこには”いぬたま””ねこたま”というコーナーがあって、犬や猫に会えたり遊ぶことも出来、フェレットもここで見ることが出来たので、フェレットと暮らしていた私は前にフェレットを見に来たことがある。
お洒落でハイソでひなびていてのどかな河川敷のある、フレンチとてんぷらとバーベキューを並べて食べるようなてんこもりの街、「にこたま」。
今日は駅までキーボードの小泉さんに迎えに来てもらった。
駅の改札を出て、携帯で話しつつ小泉さんの車の所まで行く。北側お洒落エリアで先輩の車に乗せてもらい・・・・。
「にこたま、久しぶりなんですよ〜」
と、興奮していたら、
「今ね〜、再開発で反対側はすごいことになってるんだよ。今から通るけど」
温泉街っぽいエリアのことだ。
「ゴーストタウンになってるから」
車がガードをくぐって南側に出ると、
それはほんとうだった。
同じ時間軸にあると思えない景色、北側の洒落たムードは消え、店という店が軒並み店舗移転後になっていて廃屋化している建物が結構ある。
「えーっ、コレすごいですね」
駅前がこんなに荒れ果てているのもめずらしい。ターミネーターやダイ・ハードの次回作のロケ地としてぴったりという程、どうしようもない状態になっていた。
あのひなびた大きな食堂も店を閉めていた。
そして、荒れているのはその一角だけでなく、
「”いぬたま”や”ねこたま”もなくなっちゃったんだよ」
広い敷地の遊園地も消えていた。
「ここも、何かに変わるんですか」
どれだけの規模の再開発が待っているのか。
先輩の家までバス停が二つ分。
「この高校もなくなるんだよ」
「高校も!?」
結構な距離があるというのに、今あるものでなくなるものの話が尽きないまま先輩の家に着いたのだった。
駅前の店もなくなり、温泉街エリアもなくなり、遊園地もなくなり、学校もなくなり・・・
数年後にここはどんなことになっているのか。
帰りはゴーストタウンをちょこっと歩いてみた。やっぱり閑散としていて、荒れている場所を歩いても何も風情はない。
わびしくなってきた。
早く活気のある状態になってほしいなぁ。
と、胸が痛む。
再開発が終わって、ピカピカの街に変わる頃。
街はそんな私の心も知りもせず・・。
そして私は、丁度しなびるお年頃になるのである。