渋谷区文化総合センター大和田伝承ホールにて、遠藤周作生誕90年記念「神田蘭 わたしが・棄てた・女」の講談公演の本番日。
渋谷の駅から246号線を渡った坂の上にあるのがこの伝承ホールで、遠藤周作さんのこの「わたしが・棄てた・女」の作品に偶然なのだがこの辺りの場所が出てくる。なので昔はどんな景観だったのかなと思い浮かべてみる。多分ずいぶん景色の変わったエリアの一つなのだろう。
会場の伝承ホールは花道や桟敷席などもある。まだ新しいホールなので新しいホールの匂いがしていい「気」が漂っているなぁと、なんとなくだが感じた。
楽屋に入って仕込みを待つ。舞台の作り物がその場で作られる音がして、それが出来上がると音出しのリハーサルへと移って行く。モニターの音チェックをして蘭さんの台詞の聞こえ具合を調整してもらう。バンドを始めた若かりし頃はリハーサルと言えば「本番前にもう一回練習が出来る時間」という認識だったなぁ。とにかく確認やチェック事項に終われて本番前にもう一回練習が出来るなんてことは今ではなくなった。
細かい段取りや部分的な変更などをまたメモしたりして、リハーサルが終わる頃にはすっかり本番を迎えるだけの準備がちゃんと出来たように思う。
蘭さんがリハーサル終わりで全員を集めて、軽くお話があってそしていよいよ本番の時間となった。
いつも出番前には<今までしっかり練習をしてきたのだから、あとはやるだけ。大丈夫。>と自分を励ます。とある先輩にそうやって緊張を静めてきたとお話を伺ってから、出番前にはそうやって自分自身に話しかけてきた。今日も同じ。いつものようにやればいいだけだと幕が開く瞬間にもう一度こころを静めた。
蘭さんの公演を楽しみに来られたお客さんがたくさん、溢れんばかりの満員御礼だった。
始まったら前に進むのみ。
前に進む勇気を私はいつもこういう現場で教えられてきた。
それがいつしか自分の生き方の教えとなって、今でも教えられている。
目の前にあるものに足を踏み出した方がいい、踏み出すべき時はある。お客さんをお迎えする時がその時なのだと思う。
蘭さんとは今回初めてご一緒させていただいたが、思い切って足を踏み出していくその姿に男前なかっこよささえ感じる、なんだかまた教えられるものがある出会いだった。