父に用事を頼まれていたので、それを済ませて電話をした。
すると。
「へいへい、助かったわ。どうもありがとう」
<へ?>
<ありがとうって今、言いました?>
この間は「すんません」で、今日は「ありがとう」かいな。
父がそんな言葉遣いをするだなんて、逆にこの人は本物の父なのかと疑ってしまう。
昔、小学生の頃に眉村卓シリーズにハマって読んで、それで普段怖い母が優しく見えた時に「あそこにあった電信柱の向こう側を歩いたから私、異次元に来ちゃったのかなぁ?」と本気で疑ったのと同じぐらい、信じられない気分だ。
だって、こんなにお母さんが優しいはずがない!
当時眉村卓作品に感化されていた頃の私の答えは、「お母さんは、宇宙人に違いない」だった。本物そっくりなのだが宇宙人が本物にすりかわっているという説が納得出来、そうして夕飯の時になど、チラチラ母の顔を見てホクロの位置が本物なのかどうかを確認したものだった。
そしてあの時と同じ疑いが父に対して湧いてきた。
私に謝ったりお礼を言ったりしなかった父が何故今になって・・・・。
今年こそワシは死ぬって言っていたからかしら。
だからいつもと様子が違うのかしら。
何かの前触れなのかしら。
縁起でもないことを考えていたりする。
ありがとうって・・・。
もう言わないで下さいな。
気持ち悪いから。
ありがとうと言われて不安になる唯一の存在の父なのである。