午後、しげおっちの入院している病院へ妹と待ち合わせをして行く。
手術後のたくさんの器械につながれて父は眠っていた。
「お父さん、来たよ」
意識がないのは薬で眠らされているからだ。
人工呼吸器につながれて頭のあたりには心拍数や酸素の量、血圧などの管理のモニターがあって、身体からはドレーンという管が出ていた。
ちっともの嬉しいことじゃないが、この辺りの器械類のことは自分が何度も患者側に立って経験しているので、少しは理解が出来る。
治療としては来週の月曜日ぐらいに薬を切って、呼吸器を外してみて様子を見るそれまではこの状態で経過観察なのだそうだ。
金曜日に東京に戻らないといけないから、父との会話は出来ないだろうが、こうして来れてよかったと思う。
手を握ると冷たかった。
眠っているので”しんどい”ことから解放されていることが救いだ。
ところで、”ICU症候群”という状態というものがあるらしい。目を覚ました時に自分が集中治療室に居ることを知り、このまま死んでしまうのではないかと不安になったり、もう治らないのではないかという恐怖で妄想や幻覚が起きたりするのだそうだ。
私自身は一番最初に”ICU”で目が覚めた時、かなり思考がおかしかったのを覚えている。私の場合は病人である自覚がなくて、呼吸器をつけて身動きも出来なかったのに、看護師さんに「私はいつ退院できますか?」とメモに書いて訪ねていた。来週までに退院しないとお仕事を休まなくてはいけなくなるので、それは困るという考えだったのだが、どう考えても来週退院して仕事に行けるようには見えてはいなかった。ただ相手にしてもらえなかったので、”なんで真面目に聞いたのに答えてもらえないんだろう?”とやや怒っていたっけ。
その後は、妄想がひどくなった。
隣りの部屋に知人が来ているから呼んで来て欲しいとまたナースコールを押して頼んだり、訪ねてきたY氏に「私は盗聴されているから私の家に行ってきて盗聴器を外して欲しい」と真面目に頼んだことも覚えている。変な夢をとにかくたくさん見て、それらを現実だと思っていた時期が続いた。
で、最初の入院の際にはその前3年間程の記憶がかなり抜けていることをあとで知ったのだった。
しげおっちも夢を見ているのかなぁ。
ひどい妄想は私の場合最初の入院の時だけだったが・・・。
点滴を受けているからか、シワシワ老人のはずのしげおっちの手や顔が腫れていた。
黙っているしげおっちを見るのはとてもめずらしい。
あまりなかが良くなかった妹だったが、よくしげおっちに「頼むし、仲良くしてくれや!」と言われていたっけ。
仲良くお父さんのとこに来ていますよ。
また来るね。おとうさん。