夜、東側の通りで声がした。
「火の〜用心」
カンカン。
去年もそう言えば、こうして誰かが巡回をしていた。
どうしてもやらなければならないものではないだろうに。だけど、暗く寒い夜道をこうして巡回してくれる人が町内に居るというのは有りがたいことだ。
「火の〜用心」
カンカン。
実家に居た頃は、その後に「マッチ一本〜火事のもと〜」という声が聞こえたが、ここは聞こえてこない。マッチを使うことが生活の中でなくなり、この「マッチ一本〜」は、消えていったんだろう。
「火の〜用心」
カンカン。
ゆったりとした”間”をもって、部屋に小さく聞こえてくる。
あぁ、年の瀬ですね。
ごくろうさまとも声を掛けはしなかったけれど。
私も気をつけなくちゃ。
ね、ダンボ。
締まった雨戸の向こうを、右から左へゆっくりと、その声は動いて言って、小さく遠くに消えて行った。