随分昔、丁度今ぐらいの時期に、大学1回生の時のゼミの初めての親睦コンパがあった。H教授のクラスは30人弱、女子生徒が数人という内訳になっていて、週に1回しかゼミクラスは開講されなかったので、みんなまだ友だちになれていない関係だった。
場所は金閣寺に近い西大路通り沿いにある中華料理店。
ゼミのH先生は当時35歳ぐらいだったんじゃないだろうか。ご結婚されてそんなに経っていないような話で、おとなしく育ちのよさそうな男性なのだが、見た目のおとなしそうな雰囲気と変わって、乾杯の音頭を取った時に「今日は僕のおごりなので、みなさん楽しんで下さい」と太っ腹なことを言ったのだった。
<大学教授ってすごいんだなぁ>
そう思ったのを覚えている。
コンパはその後普通に盛り上がった。まぁ未成年でお酒を飲んだ人が結構いたということはあったが、それ以外はよくあるコンパの一次会といったムードだった。
そして店を出たら二次会は喫茶店に行くことになった。
二次会の喫茶店にて。
「あら」
先生が具合いが悪そうに、店の隅っこに座っているではないか。
飲み過ぎちゃったんだろうか。そうでなければ、先生は持病があると言っていた。もしかしたら具合いが悪くなられたのかもしれない。
「先生、大丈夫ですか」
女子数人で声を掛けると、先生は生気のない顔でこう答えたのだった。
「みんなに奢ると言ったけれど・・・・、」
「こんなにお金を使うとは思ってもいませんでした」
えぇ〜〜〜〜〜っ。
「10万円、下ろして来たんですけれど」
「まさか使ってしまうとは・・・」
そうしてガックリとうなだれるのであった。
まぁ・・・・30人が飲み食いすれば、10万円ぐらい行くかもしれない。
男子達はそういうことも知らずに、「ここの喫茶店も先生の奢りですよね〜」なんて調子のいいことを言っている。
そんな中教授はひとしきり「どうしよう」「どうしよう」と暗くうつ向いているばかりなのだ。
他の女子は何て思ったかは知らない。
だが、18歳の私はあまり同情的ではなかった。そんなに暗い顔をするのなら、明るい顔で「すまない、ちょっとやっぱり徴収させてくれ!」と言ってくれたらいいのに、先生頑張ってよと思って黙って聞いていたのだ。
H先生は、ひとしきり落ち込んだ後でヤケになって暗い声でこう言った。
「もうみんな、パフェでも何でも食べて下さい」
別に奢ってくれなくていいよ、先生。
<大学の先生ってすごいんだなぁ>
と、思った3時間後。
「この人、ちっこいわ」と心の中でつぶやいたのであった。