この所、焦点が合わないので眼科に行ったら、近視と乱視が少し強いということだった。以前も近視と乱視があると言われていたが、それほど生活に支障はなかったので、そのままにしていたのだ。
「どうします?でも眼鏡はいやでしょう?」
そう先生に言われたが、私は視野が安定しない方がいやなので、別に眼鏡をかけることに抵抗はない。そう伝えると、早速眼鏡を作ることを前提に、検査用の眼鏡にレンズを入れた状態で「眼鏡をかけて付近を試しに歩いてみる」にトライすることになったのだった。
眼鏡をかける練習なのだそうで、私の前の患者さんも黒い検査用の丸ブチ眼鏡をかけて医院の外に練習に出掛けて行ったが、私も外に出ることになった。
眼鏡を掛けるとビックリする位、景色がクリアに見えるのだが、普段の見え方にもう慣れていたので、逆にハッキリ見えると戸惑ってしまう。
「こんなに見えちゃっていいのかしら」
見えちゃっていいのだが、すごく見えるので逆に何かこっちの世界の方が嘘の感覚に思えてきたりする。元々私は目がよく両目共1、5で何不自由なく来ていた。目が悪くなってからも”自分は目がいい”という思い込みだけは続いていたのだ。
眼鏡の練習はちょっと足元がフワフワする。
よく見えるのだが、望遠鏡を覗いた時のような遠近感覚が掴めない感じも同時にするので、足を踏み出した時にいつもの感覚と違うのだ。軽い車酔いにも似た感じがする。
横山やすしさんが眼鏡を取られて「メガネ、メガネ」と探しているあの姿に、私の場合は眼鏡をかけたらなっている。よく見えるのに、少し伝い歩きっぽく医院に戻って来たのだ。
明日もう一度診てもらって、眼鏡を作ることになった。
まさか眼鏡を掛けるようになるとは思わなかった。
眼鏡の練習は宇宙に降りたような無重力な体験だった。