外来日。待ち合い室にテレビがあって、いつもは何となく眺めているだけなのだが、今日は皆既日食の生中継が放映されているせいか、テレビを見ている人が多い。
天気があまりよくないと言いながらも、日食の様子をリアルタイムでレポートしているので、テレビを通してだがだんだん病院の待ち合い室も日食ムードになってきた。
「少しずつ暗くなってきました」
「そして、だんだん翳ってきましたね」
「ゆっくり」
いくらテレビでやっていても、本当はその場所に居るのが一番いい。人間の視野で捉える感覚とはやっぱり違うんだなぁとレポーターの人の声の興奮度数で思う。
「あぁっ、ダイヤモンドリングです」
病院の待ち合い室のテレビは音量が小さく、途切れ途切れにしか言葉がわからない箇所があるので、虫食い状態で音声を聞く。こんな時、誰かが「ボリュームあげましょうか」と言ってあげてくれたらいいのになぁと思いつつ、座っている人達はみんな耳を澄まして聞いていた。
テレビで観る日食は大興奮するようなものではなかったけれど。
病院の待ち合い室で、名前も知らない人達と偶然一緒に観ることになったことが、私には少し感動的だった。
次の皆既日食は26年後。もうその頃には隣りの人も私も観られないかもしれない。
でも、もしまた観られるのならきっと今日のこの光景を私は思い出すだろう。
”あの頃の私、とても幸せだったわね”
そんな風に今日の日を思い出して、懐かしくあたたかく思うんだろう。
日食より見ておきたいものはここにある。
待ち合い室の椅子に座り、きょろきょろと周りを見回して・・・。覚えておきたいな・・・と、この景色を胸に刻んだのだった。