レコーディング中の2曲のTD日。
トラックダウンの作業は、エンジニアさんにデータを渡したらその後は出来上がるまでエンジニアさんの作業タイムになる。
今日のTDは日暮里のスタジオなので、あまり来る機会のない近くを散策することにしたのだ。
最初は近くにある喫茶店に入って涼んでいたのだが・・・・。私は喫茶店に長居することが出来ない。というか、一カ所でジっとしていることが出来ない性質なので、抹茶オーレを飲み終えたらもうジっと座っているのがイヤになってきた。
この辺は「谷根千」と呼ばれている辺りらしく、「谷根千」と言えばプチ江戸旅行気分が味わえるところだということは知っていた。じゃぁせっかく時間があるのだからこの辺りをブラブラしてみようか。と、散策をすることにしたのだった。
しかし。
喫茶店を出たら早くも店の前で、今居る”ここ”がどこなのかわからないことに気がついた。どこかプチ旅行気分を味わいたいのですが・・・・・。それはどこに向かって歩いたらいいのでしょう。何にも詳しいことを調べて来なかった。なのにぴょんと飛び出て来てしまった。
そうだわ。
こんな時こそi-phoneの地図があるじゃない。
自分の位置を調べてみると、駅のすぐ近くに自分が居ることが判明した。
「あら。舎人ライナーって日暮里から出ているのね」
地図によると、以前から気になっていた「舎人ライナー」という路線が載っていて、よくあることなのだが私は”自由”時間の時はこんな風にどんどん気が向くまま好きな方向に行ってしまう。
「そうだ、駅に行ってみよう」
「そして舎人ライナーに乗ってみよう」
「なんとかライナー」というネーミングがプチ旅行っぽくて、恐らくそこに惹かれてしまった。あと乗ったことのない電車に乗るのは楽しい。
だが・・・・。今度は駅についたら「ようこそ日暮里へ」という幕と今度は「谷根千案内マップ」みたいなものが置いてあるのを見つけた。
わわわわ。
すごい~~。
計画性がないとよく親に言われたが本当に計画性がないなと自分でもつくづく思う。案内マップを手にした私は、急に京都めぐりの若い女性のように駅を後にして、今度は谷中銀座に向かって歩き出したのだった。
そうそう、さっき谷中銀座が近くにあると教えてもらったんだった。
谷中銀座はちょっとした江戸旅行的ムード、器のお店にフラっと入ったらお茶を出してもらったりして、気分はすっかり一人旅モードになっていた。いいやん、いいやん。
いやいや、私こんなところで遊んでいていいのかしら。何も言わずに出て来たけれどデータに不備がある、とか何か困ったことになっていないかしら・・・。
ま、何かあったら電話が掛かってくるでしょう。
そうしてマップ片手にブラリ散策を続行したのであった。
それにしても今日はまた暑い。梅雨とは思えない真夏日でジリジリと太陽が照りつけてくる。
はふぅ~~~っ。
気づけば思ったよりスタジオから離れた場所まで歩いて来ていた。
急にちかれたび。
クラクラしてきた。
急に歩くのが疲れて来てグッタリしていたのだが、マップを見ると「めぐりん」というコミュニティバスのバス停がすぐそばにあるのに気がついた。「めぐりん」は上野から浅草の方を回るバスと谷中近辺を回るルートの2種類があって、浅草ルートは何度か乗ったことがあったが谷中ルートは、上野の美術館からフラっと乗った一度しかまだ乗ったことがなかった。
何故・・・、私はバスに乗ってしまったのだろう。
いえいえ、いつもあなたこんな感じじゃないの。
計画性の無さはここでも出てしまい、そのバスに乗りしばらくの後に私は上野駅のアトレに居た。
もうこのままパンダでも見に行っちゃおうか。
何もなかったら行っていたかもしれない。が、今日はTDの日。一番最後の大事な行程の日なのである。
ちょっとだけTDのことが心配になってきた。
まさか今上野に居るということはエンジニアのN氏は知らないであろう。大丈夫かしら。もうそろそろ試聴タイムの時間なんじゃないかしら・・・・。
罪悪感に覆われつつ・・・・駅ビルのアトレを出ると私はアメ横を歩いていた。
「奥さん、安くしとくよっ」店のおっちゃんに声を掛けられている。なんでこんなところまで来てしまったんだろう・・・という罪悪感と共にまた「閉店セール」をやっている貴金属店に吸い寄せられ・・・・。もう帰らないといけないわ・・・と思いつつ洋服屋さんを覗いていたり・・・・。
最後、松坂屋のデパ地下でブラブラしたところでようやく我に返ったというかなんというか・・・・。
タクシーの運転手さんに「谷根千マップ」を見せて「この辺りに連れて行って下さい」と言って、ほんのちょっとの散策は最後はタクシーで帰るお出かけになっていた。
まるで門限を破って帰ったときのようなドキドキ感があったが・・・・。そぉ〜〜っとスタジオに戻ると、ちょっと大丈夫そうだったので安心した。いや、本当は大丈夫じゃなかったかもしれないが、なんとなく大丈夫っぽいムードが漂っていたのでそのままfade in状態でソファに座ったのだった。
そして今日は念願の2曲がまずTDまで終了した。
とてもいい形に仕上げてもらった。
干支を一回り分、私はポップスをお休みしていた。
また始まりのあらたな一歩。
待っていてくれる人が居ることを胸に、目一杯自分の温度感を詰め込んで球を投げて行きたい。