家の前に出たらいつもいる黒い猫が居た。
首の後ろを見たら毛がむしられていて、皮膚が見えていて少し怪我をしていた。
昨夜遅くに聞こえてきた喧嘩で、やられたんだろう。
この黒い猫は4年前に斜め前の家にもらわれてきた猫で、もう一匹メスの兄弟猫が居たのだが、その女の子の方は人なつこかったのでどうやら他所の家の猫ちゃんになったみたいだった。私の家にも遊びに来てくつろいでいた愛嬌のある猫ちゃんだったのだ。
オスのこっちの猫はと言えば、臆病で警戒心が強く、子猫の時からずっと知っているのになつくということはまずなかった。いつも距離を置いている感じだったので、毎日姿を見ても「おはよう」と声をかけるぐらいのそんな関係程度だった。
いつも家の前の袋小路の道に居る。
しかし臆病な割に、猫に対しては退散しないでこらえている。コテツという凶暴茶トラが「退けよ!」とわざわざ因縁をつけに来ても、退散はしない。いつもこれでにらみ合いや喧嘩になっているのだった。
最近はコテツ以外に、別の黒い猫まで「退け!」と来るようになった。
「フ〜〜!」
「ン〜〜〜ニャンニャニャニャー!」
ヤンキーが詰め寄っているのかと思う程、接近していちゃもんをつけている姿を見る。縄張り争いかと思ったが、コテツと黒い猫はもう去勢済みなので縄張り争いではなく「なんか腹が立つ!」という理由みたいで、これまたヤンキーみたいじゃないか。
だが自分からは喧嘩が売らないが、かといってこびもしない。
何か思うところは彼にもあるらしい。
例え慣れていなくても凶暴コテツの因縁のつけ方が嫌いな私は黒い猫の方を応援していた。
「こら!あっちに行きなさい!」
今日は怪我があまりに痛々しかったので思わず、黒い猫に「どうしたの?やられちゃったの?」と言いながら近づいてそのまま特に何も考えずに身体を触ったら、「にゃ」と返事をしてそのまま大人しく撫でられていた。
「痛かったね」
「にゃ」
「痛いね」
「にゃ」
「早く治れ」
「にゃ」
そして私のところに頭をすりつけてそのままゴロンと横になって無防備な状態になったのだった。
心配したのが伝わったのかなぁ。
4年間一度も慣れてくれなかったのに。
お前、なんて名前なの。
早く傷、治るといいね。
いいこいいこ。
よくわからないけれど何かが通じたのか・・・。
「早く治れ」
「にゃ」
あったかい心地いい距離感でしばらくそこでしゃがんで撫でていたのだった。