輸血を受けたあとで神田明神に立ち寄る。ここ最近は七五三のお参りに来ているご家族をちょくちょく見かけていたが、今日は男の子と女の子がパパとママと一緒にお参りにきていた。
お父さんはパリっとしたスーツ姿で、仕事もバリバリこなすようなタイプ。お嬢ちゃんとボクもいい洋服を着せてもらっていて、品のよさそうな一家だった。
「早くぅーっ、おみくじ」
ボクとお嬢ちゃんはおみくじがひきたいらしい。ふぅ〜ん。こんなにちっちゃくても、ここは「おみくじがひける」場所と認識しているのかぁ。
「おみくじ〜!早くひきたい〜」
そうねぇ。おみくじねぇ。
でもおばちゃんはおみくじ、おすすめしないわ。
かつて私も「おみくじ大好き」ちびっこであった。
なのだが。
ある年のお正月のこと。
毎年1月3日、私の家には父の会社の仲間がやってきて、麻雀大会を開いていて、普段駅からも遠く誰かが訪ねて来るような家でもなかったので、たとえおじちゃん達であっても来客があって家が賑やかになるのは楽しい出来事だったのだ。
で、ある年というのは私が小学校4年生の年の麻雀大会でのこと。
私は麻雀をやって盛り上がっているおじちゃん達を応接間のソファに座って眺めていると、Hさんというおじちゃんがニコニコしながら私に近寄ってきたのだった。
「みきちゃん」
ちょっとお酒も入って上機嫌そうなおじちゃん。
「おみくじはひいちゃだめだよ」
・・・ん?
急になんでそんなことを言うんだろう?
「おじちゃんはね、おみくじをひいて凶だった年にね」
「こんなんになっちゃった」
と、言うと服をペロっとめくって「人工膀胱」なるものを見せたのだった。
Hというおじちゃんから、突然露出狂のような感じで、見た事もない「人工膀胱」を見せられたショックは大きかった。初めてみる人工膀胱。というかそんな単語もそこで初めて知ったのかもしれない。
びっくりした顔で固まってしまった私にHおじちゃんはこう言った。
「だからね。おみくじはひいちゃ駄目だよ」
それから私はおみくじをひかなくなった。
おみくじ=人工膀胱になってしまい、トラウマになってしまったのであろう。
「おみくじ〜!早くひきたい〜」
お嬢ちゃん、ボクちゃん。いいわね。おみくじがひきたいって無邪気に言えるのは幸せなことよ。
私はおみくじで凶を引いたらきっとしょんぼりする性格だ。
そしてお嬢ちゃんとボクちゃんは、例え凶を引いても帰りのレストランでハンバーグを食べる頃にはおみくじを引いたこともすっかり忘れているのであろう。
幸せに生きるとはこういうことなのだ。