春が来た。
気がする。
私の部屋の中に。
セントポーリアの花が咲いたからだ。
これ、ただのセントポーリアではなく、私にとってお守りのセントポーリアなのだ。
今から10年以上前、お世話になっているご婦人から挿し葉で増やしたというセントポーリアの芽が出たばかりの赤ちゃん苗を二ついただいた。前の前の家に居た頃の2004年ぐらいのことだ。
「咲くまでにとっても時間がかかるんだけど、咲いたら愛着がわいてね」
そう言っていただいた。どれぐらいで花が咲くのか尋ねたら半年じゃぁまだ無理、8ヶ月ぐらいかしらねぇということで、そんなに長くかかるのかぁと咲くイメージがその時はつかなかった。
外ではなく家の中のいい場所で。だったらやっぱり南側のレースカーテンの側がいいに違いない。窓辺に置いて”そのとき”を待つことにしたのだった。
半年が過ぎ、8ヶ月が過ぎ、葉っぱは立派にたくさん伸びてくれたんだけどな。
花が咲かない。
そして1年が過ぎ・・・新しい家に引っ越す時も花は一度も咲かなかった。
咲かなくても、枯れなかっただけでなんだか愛着がわいていたので、引っ越し先に葉っぱだけのその二鉢も持って行くことにした。
新しい家は窓が多い家だった。が一階で住宅が密集していたので、すごく日当りがいいというわけでなく、一つはキッチンの東の出窓に、もう一つはキッチンの北側に暫定的に置いてみたのだった。
それから2ヶ月経った7月のある日。
東の出窓に置いたセントポーリアがついに花をつけたのを見つけたのだった。苗を頂いてから2年が過ぎていた。もう咲かなくていいや。枯れずにいてくれたら。そう思っていたが、そうして接してきた葉っぱの鉢植えが「ピンクの花だったのかぁ」と答えを見せてくれたことにものすごく興奮した。すごく嬉しかった。北側に置いていた鉢も花をつけた鉢の横に置いたら、その少しあとに花を咲かせてくれ、最初の鉢はその後1年間ずっと花を絶やさず常にたくさん咲かせてくれたのだった。
それから花は休眠をしたり、また花を咲かせてくれたりして、花が咲いている時の私の体調は同じようによかったりと体調が花の咲き具合に同調している気がするようになってからは「お守り」のような存在になっていったのだった。
そうだ、このお守りの花の葉っぱを挿し葉にして、私も誰かにあげよう。
何人かに声をかけて、事務所のY氏が欲しい!と興味を示してくれたので、私がもらった時のように挿し葉から芽が出るのを待って、同じように「咲くまでが長いんだけど、咲いたらすごく愛着がわくから」と渡したのだった。だいたい挿し葉をしてから芽が出るまでに3ヶ月かかる。とても気を長くしないとこの花とはつき合ってはいられない。
Y氏の家でも咲くまでにかなり時間がかかったようだったが、咲いたら写真に撮って送ってくれた。とても嬉しかった。
それから季節問わず、我が家のセントポーリアもよく咲いてくれた。洗い物をしながら視線をちょこっと上に上げると花が咲いていてくれる。「頑張れ頑張れ」と応援してくれているようで、いつも嬉しくなった。なんだか心強くなれた。
ところがある日、一鉢が枯れてしまった。どうも病気になったようで数日の間にだめになってしまったので、一鉢だけが残ることとなった。頻繁に咲いてくれる方もメインの鉢が残ってくれたのが救いだった。
だが2013年にもう一つの鉢も急に枯れてしまったのだ。水をやり過ぎてしまったのか、病気になってしまったのかはわからない。
私のお守りはなくなってしまった。
それに同調するかのように、私の病気も深刻な方へ進んでいった。
昨年の春、Y氏が挿し葉から育てた赤ちゃん苗をくれた。
唯一、私のお守りの生き残りがY氏宅にあったとは。
今は東側の窓がなく、咲かない時期を長く作った南側の窓辺しかないが。
咲いてくれたらいいな。私のお守り。
10ヶ月ぐらいかかったのかな。
咲くとはあまり期待せずにつき合ってきたから。
でも一週間ぐらい前に蕾みを葉っぱの奥で見つけてから、ず〜〜っと楽しみに待っていたんだよ。
お帰りなさい。私のお守りさん。
またお守りさんが帰ってきてくれたから、きっと元気になれる。
春が来た。
私の部屋に。
セントポーリアはそんな花。
少し地味だけど、私にとって愛着のある花だ。