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投稿日:2007年02月09日

2007年02月09日

タクシーに乗った。
車内では会話をすることもあれば、黙って過ごすこともある。2度同じ車に乗る時もあるし、3回目だわと驚くこともある。最初は不愉快な対応に感じた運ちゃんが、降りるまでの間で憎めない人柄だとわかることや、逆に暗い話ばかり聞くことになって乗っているうちにグッタリすることもある。だが、タクシーの中というのは、後腐れのないアッサリした他人との関係を楽しむ場所として過ごせる所だと思う。例えその日怒りに満ちてエコーカードを取って帰ったとしても、それが自分の悩みに深い傷を残すこともないのだ。
今日の運ちゃんは50代後半ぐらいの、非常にフレンドリーなおっちゃんだった。”ようこそ、わたしのタクシーへ!”そんな明るいムードがあって、お客さんの私に快適な移動空間をくれようとしていることは乗ってすぐにわかったので、私もリラックスして会話に入って行くようになったのだった。
が・・・・。
「あっ、今の道・・・」
「え!?」
おっちゃん、曲がる所を一本間違えた。
話に夢中になって見失ってしまうこともあるだろう。人見街道というのは車を運転しない人間でも東京西エリアでは知られている道なので、次の角で曲がってくれると思っていたのだったが・・・・。
またしても
「あっ、これ右・・・」
「え!?」
ここで曲がらなければアウト。
車はブーンとまっすぐに進んで行ったのであった。
さっき人見街道と言ったのが、聞こえていなかったのかもしれない。
「人見街道を、お願い出来ますか」
「人見街道って、こっちじゃなかったでしたっけ。もうちょっとまっすぐ行った所に・・・。あ!間違えたー!」
しょうがない。こっちも話をしていたから・・という思いがあったので、ここは私が道案内をしてルートにまた戻っていったのだった。
しばらく沈黙となったが、また運ちゃん、気を取り直して明るい話題をこっちに向けてくれるようになり・・。
「ほら、よければアメどうぞ!」
アメちゃんを受け取り、そこからは運ちゃん、今度は自分の転職話から運転手人生について話す時間となる。今まで乗せたお客さんの話がいろいろと出て来る。タクシーの運ちゃんは”いつもはこの辺で仕事をする”というエリアがあるみたいなのだが、このおっちゃんは「私はね、都内どこでも幅広く走るんですよー」と言うのだった。
「ほら、よければ缶コーヒー!」
今度はおっちゃんは缶コーヒーをくれた。缶コーヒーなんて、今まで渡したことはあってももらったことがない。これって無邪気に受け取っていいものなのか。
「乗られたお客さまには、全員にお渡ししているんですよ!」
「え!全員に?」
「はい、一期一会で何かのご縁ですから!」
だがその後
おっちゃんはまた道を間違えてしまうのである。
「あっ、今のところ・・・」
「え!?」
「こっちじゃなくって、こっちなんです」
「そうだったっけ。あー間違えたー!」
目的地に着くと、いつもより300円以上高い料金を払うこととなったのだった。
明るく去って行ったおっちゃんよ。
幅広く走らなくていいから、道を覚えてくれ。目的地にスムーズに連れていってくれることを私は一番望む。気持ちは十分伝わったが、アメちゃんより、缶コーヒーより、サービスなら料金がピッタリの方がいい。いつかお客さんを怒らせたと言ってその話の時にはおっちゃんは怒っていたが、私はそのお客さんの方に同調する。
が、自分の思いを別に訴えることもなく・・・。
後腐れなく、一期一会。
<今日はハズれ!>
缶コーヒーをバッグに入れて、それでおしまいとなったのであった。