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投稿日:2007年05月19日

2007年05月19日

今日は前からお願いをしていた換気扇の修理に来てもらった。
ここのキッチンの換気扇は、突然枠ごとはずれて落ちて来るということがあって、ここ最近は怖くて換気扇を回せなくなっていたのだ。
「ガラガラガシャン、ガコーン!」
鉄の塊が落ちていて、壁から青空が見えていた。下敷きにならなくて本当によかった。実体験は笑いごとでなかったのだ。
ピンポーン。
「こんにちは。換気扇、見に来ました」
一瞬不安がよぎる。
換気扇修理にやって来たのは70代位の老夫妻だった。
修理に来たというよりも、これは叔父と叔母が訪ねてきた図である。だってこの人達は本当の内装業者さんじゃない。「内装の人は今入院をしていて、見舞いに行った時に代わりに見てきてと頼まれたんですよ。」「直せるかどうかはわからないけれど、多分直せると思うから・・・」と、代理で電話を掛けてきた”内装業者のおともだち”なのだ。
どんより。
換気扇を直してもらえるかどうかの不安に、換気扇を直しに来て怪我でもされたらどうしようという不安が加わる。
電話じゃこんなにお年寄りだと思わなかった。
「お、お掛けになって下さい」
「いいんですのよ、おほほほほ」
「主人は、多分出来ると思いますんで」
”タブン”・・・。
三脚におじいさんが上ると、私の方が血圧が上がる。
”落ちないでくれー”
”ギックリ腰になれないでくれー”
”無事でありますように”
そこら辺を支えながら10個ぐらいお祈りをしたのだ。
「ネジか」
換気扇が落ちて来る理由は、換気扇を壁にはめただけで一つもネジで留めていなかったからであった。留め忘れ・・・・。おともだちの内装業者の人も大胆なミスである。
取り外した換気扇をおじいさんは洗ってくれた。私がやりますと何度言っても「いいよ、ワシがやるから」と言って、何度も丁寧に洗い直す。最初、本物の業者さんでないことが不安だった私も、手をベタベタにしながら洗剤で繰り返し汚れを取ろうとしてくれる姿に心が動いていったのだった。
横に並んでキュッキュと拭きながら、ちょっとずつ会話をする。
「ウチにも昔猫が居たんだよ」
「そうなんですかぁ」
「18年生きた」
「へぇーーー」
おばあさんの方は、車に戻って留守番をすると言っていたので、おじいさんとの二人の会話になる。
「ワンちゃん何て名前」
「ダンボです。耳が大きいから」
「ワンワン怒ってるねぇ」
「外に出たらしょんぼりするんですよー」
「あはは、内弁慶か」
初めて会った人だがこうして台所で並んで一緒に洗い物をしていると、親しみがわいてきた。
「大家さんともお知り合いなんですか」
「はは、従兄弟ですから」
「え!」
ゲゲ。
ということは、あなたが不動産屋さんから聞いていた大家さんの東京の従兄弟。山口に住む大家さんの東京代理の大家さんっておじいさんのことだったんですか。
”内装業者のおともだち”は、東京の大家さんであった。
はは!と笑って普通に会話をしていたのが、急にはじめましての挨拶に変わったのだ。
イタチを隠しておいてよかった。
入居の際ペットはチワワ一匹が条件だったのだ。
数年前、保谷にある祖母の家を懐かしくなって見に行ったことがあった。祖母の家はアパートで一階を住居にして二階を賃貸にしていたが、今は賃貸のハイツに建てかえられ面影はない。
庭で青虫を採ったことや台所にあった戸棚やテーブル、独特の匂いも、もう記憶の中でしか会えないのだとあの場所に行って感じ、”そうだよなぁ、仕方ないよ”と、ちょっぴり寂しく思いながらも夜の道を自転車で帰ったのだ。
老夫婦にも思い出がよぎっただろう。
新しい建物が建つ前には、誰かの想いがつまっているものが建っている。人にはいくら古く傷んで見えても、大事にしている思い出がそこにはあって、そこに前に何があったのか忘れてしまう人達の中、何に変わろうとなくなって消えてしまったもの達を思い出せる人が存在するのだ。
おばあさんまでが家に上がって来た謎が、ようやく解けた。
換気扇をあんなに綺麗にしてくれた。もうこれで十分ですと何度言ってもおじいさんはキュッキュと磨いてくれた。
結局、数時間一緒に居た。
そうだったのか。
「また何かあったら、遠慮なく連絡してくださいね」
そう言っておじいさんは帰って行った。
最初不安に感じた”内装業者のおともだち”の修理。
少しは似た気持ちを私も知っている。
大事に住むね。
換気扇を回すと新品の風が部屋を回っていった。