春休みの終わる頃、新しい学年になる前には近くの商店街にある文具屋さんに行っていた。
新しい筆箱を買いにだ。
そして一番店内で楽しい品選びの時間を裂いたのが、新しい消しゴム選びだった。子供の頃から私は衝動買いが出来ない方だった。何度も足を運び、「これが好き」「これがいい」「やっぱりこれ」と、気に入ったことを確認して、ある時それを買いに出掛ける。文具店での小さな買い物に想いを傾けたものだった。
ケースや色、形。
いろいろな選択肢の中、消しゴムは「匂い」だった。
酸っぱい香りではなく、甘過ぎるのもだめ。少し花の香りに似た甘さのする香りが好きだったように思う。小さな町だったから、小学校の時は8割の生徒が同じ文具店で文房具を選んだはずで、普段は友だちの着ている洋服や靴に影響を受けた私だったが、消しゴムは自分のものさしで選ぶ品だった。
春は匂いがする季節だった。
教科書も、匂いを嗅ぐのが好きだった。
「いい匂い」
出席番号順で並ぶ席はいつも窓側の後ろの方の席。
新しい消しゴムは角っこが綺麗な角っこをしていた。
春は新緑の香りじゃなく。
甘い大好きな消しゴムの香りだった。