クローゼットの中の一つの引き出しの中に、古い缶が3つ入っている。
一つはミシン糸の入った缶、もう一つは縫い糸の缶、それから裁縫道具の缶。
母が使っていたもので、今は実家から持ってきて私が使っている。
母はお裁縫を習いに行っていたが、私から見たら決して器用ではなかった。私も縫い物は下手。まっすぐ縫ったつもりが引き攣れていたり、直線になっていなかったりで、不器用だ。だから今時間があれば縫い物や編み物がしたくなるということ自体意外でならないのだが、母の裁縫道具のおかげで缶のフタを開ければ、材料に困ることはなく、どんな柄の生地を縫う時にでも何かしら合う色の糸が見つかるので助かっている。
「そのはさみで紙を切っちゃだめ!」
別にそんなこと、しないのに母はよく私に牽制をしていたっけ。
裁縫になんて全然興味がなかったし、やりもしなかったのに、何故かしら今は教えてくれる人もないのに道具箱の中のアイテムの扱い方を覚えている私が居る。
ヨックモックのクッキーの缶の中に、裁縫用のチャコペンシルを入れた丸い缶は栄太郎あめの缶。おばあちゃん家にあったな、栄太郎あめ。
少しずつ、好きな形に仕上げて行くのが好き。
ずっと自分が好きでいられるものに囲まれて暮らしていたい。
お母さんと同じぐらい不器用な仕上がりだけど、気に入っている。
母に似ているなぁとふと思う静かな夜だ。