大家さんからの手紙が届いていた。
ここは、この館二軒分の水道料金を、大家さんがまず一括で支払って、大家さんが小メーターの数字から水道料金を割り出して、それで個別に手紙でいくらになりましたというお知らせが来るというちょっと変なしくみになっている。
封を切ると、
・・・・。
水道料金の件に加え、1月の15日に2階に新しい住人がお引越しをして来るということが書いてあった。
年末に急遽決まったとのことだった。
しまった。
住人が決まったのか。
あぁ・・・。
きっとあの日のあれだったのだ。
部屋の内見に来る人達は今まで、ドスドスと歩いてうるさかった。まだ自分の家でもなく部屋を見るだけの時の心持ちは、自分もそうだったが近隣への迷惑を考えるアタマがない。
「わぁ!広いですね〜」と小走りで移動してみたり、人によっては壁をコンコンと叩いて、防音の具合を調べたりと自分のことしか考えないのである。
ドスドスされると、ダンボと私とで”実際の住環境”を知らせる為と、あと出来ればここを気に入らないようにという願いを込めて、ワンワン攻撃やドスドス攻撃を仕掛けていたのだった。
「セーフ!」
「やったね!」
だいたい月の終わりに引っ越しがあるのかなと思っていたので、月の終わりになって誰も来ない様子にホっとしていたのだ。
でも一日だけ、とても静かな内見者が居た。
それでも様子がわかるこの館なのだが、年末のある日の午前、いつもの内見者達のようなドスドス歩く部屋鳴りではなく、人気はあるのだが静かな来客があったことを覚えている。
ビー玉が上を転がるような音がした。
<上に人が居るのかな。>
山口県に住む大家さんの親戚が来たのかもしれない。
ダンボと私はこの日は攻撃をしなかった。
いつものように静かに部屋で過ごしていたのだった。
あれだ。
”ここ、とっても静かね”
”気に入ったわ”
静かじゃない。犬は吠えるし私も吠える。深夜に出掛けることもあるし、もっと深夜に帰って来ることもある。
明け方、ゴミを出そうとするとダンボは必ず私にタックルを仕掛け、ついでに吠える。
日中、私はどこかの電話窓口の人を捕まえて、「おたく、会社の窓口なんでしょ。」と対応の悪さに吠える。
15日ってもうすぐじゃないか。
風邪を引いたら、介抱を頼もうか。いやいや、二階の暮らしが丸わかりなのが気持ちが悪い。
静寂はあと10日。
大家さんは手紙の中で喜んでいた。
<そうですか・・・>
私は手紙を読んでガッカリしたのであった。