今日はデモ作りの仕上げの日。
2階の人が引っ越してきてから、こちらの暮らしが変わったことは、部屋での作業の音量と時間を気にするようになったということなのだ。
内見に人がやってきていた時には、「アァアア〜」「ララリラ〜」と、声を出したりスピーカーの音をちょっと大きめにし、ダンボにも一緒に頑張ってもらって、この家から出る最大迷惑音をアピールしていた。
”ここの家は、こういうことをしますのでよろしく”と最初に断りをいれておかないと、あとで文句を言われるのはたまらん。
が、内見者が住人になった時、このアピールは終わりになり、コソコソモードへと変わるのだった。
「あの家は楽器を使っています」
そう報告をされると、今度は私が住人として危うい立場になる。場合によっては、新しいお部屋を探しにどこかの物件の内見者となることだってあるのだ。ところてんを押し出すように、2階に住人がきて私が押し出しとなる。トランプゲームでも意外な展開があるように、私の暮らしにだって、いつ波乱が起こるかわからない。だいたい、私は前の家で突然の押し出しとなった。
まず、外に2階の人のバイクと自転車の有無を確認する。両方ない日が2階が留守の日。今のうちにやろう。昼間っから雨戸を閉めて「ア〜アァアアア〜ッ」。
録音作業で声を出す時はマイクに他の音が乗らないようにと、オケをヘッドフォンで聴く。なので、私の耳には全部の音が鳴っているのだが、私の家から漏れるのは私の歌声だけということになる。これはちょっと私自身が恥ずかしい。歌詞が全部ついていても、一部だけ歌詞がある時も、最初からアカペラで歌うと決めて歌うものとそうでないものは、伴奏がないとどうも滑稽になるのだ。
今日は何度か外を見たが、自転車が停まっていた。昼も、午後も、夕方も。
だが仕上げは今日しかない。
「ラーリラー、ワウッ!」
「ウゥウウウ〜、ラーブッ!」
「ワォーーー、チャーンス!」
私んちだけのことじゃない。音楽仲間はだいたいいつもこんな感じで家でデモを作っている。音楽の仕事は華やかでもなんでもなく、滑稽なことの連続なのである。