子供の頃、私達は”ガチャガチャ”と呼んでいた。
10円を入れてハンドルをひねると、コロンと取り出し口に楕円のプラスチックのカプセルが出て来る。中身は覚えていないから、自分の心をつかむものはなかったのだろう。だけど、ハンドルを回す時、大きな夢を抱いてワクワクしたものだ。あのハンドルが少し手に重みがあったことも、「今から、すごく素敵な物が出て来るんだ」という気分をくれた。
”ガチャガチャ”には、そのうち興味がなくなった。多分、値段が10円ではなくなった頃なんじゃないか。それを機に、期待した割りにいい物は出て来ないという冷静なアタマが働くようになったからだと思う。
こうして私は”ガチャガチャ”を、小学生のうちに卒業をした。
もう、しないと思っていた。
が・・・。次に仲間うちで、流行ったのは20代の頃のことだった。
その時、流行ったのは300円の”ガチャガチャ”で、確か”ガチャポン”と言っていたと思う。丸いカプセルの中には、目玉のシールがあらかじめついている眼鏡が入っている。必ずその眼鏡が出て来るというもので、誰がかけてもおかしな顔になるという、ただそれだけの理由で盛り上がり、ハゲカツラ的な飛び道具として、何故か私も買ったのだ。
シールが貼ってあるので、眼鏡をかけた本人は前が見えない。
「ねぇ!どう!?」
あははは!
わはははーーー!
一つで十分だった。
一人が買って、それでみんなで遊べたのに。
でも楽しかった。
もうガチャガチャはしないと思っていた。
ゆうべ名古屋を出た時には・・・・。
足柄サービスエリアにて。
私はTちゃんのお土産を買おうと、遠くに看板が見える「桜フェア」のコーナーを目指して歩いていたのだ。もし、別のドアから入っていたら、桜シリーズの洋菓子の前で、「あれがいいかな〜、これがいいかな〜」とやっていた筈なのである。
ところが。
そこに行くまでに私を呼ぶものがあった。
<こっちに来てみて!>
なんだね、キミは。
ふと右側に顔を向けると、「セレブガチャ」と書いてあるガチャガチャを発見したのだった。
だめだめ。
ガチャガチャはやらないの。
<でも、>
<こんなものが入ってるかもよ!>
ショーケースには、DVDだのi−podだの、ブランド物のお財布やポーチ、アクセサリーなどたくさんの物達が並んでいた。
わぁ・・すごいね〜〜。
当たったら。
でもね。私はあっちに行くのよ。
桜コーナーに行く途中なんですよ。
ばいばーい。
<ちょっと待って!>
<こーんなに、いっぱい商品があるんだよ!>
<なのに行っちゃうの?>
んなもん、当たるわけないじゃん。
擦れた大人の心に戻ったのだったが・・・。
<いくじなし!>
<好きなの、選べるんだよ!>
<どれでも、好きなのを!>
どれでも、好きなの?
Tちゃんの持ち物と同じブランド名の物がいくつかあるのが、実はちょっとだけ気になっていたのだ。
桜せんべいより、そっちがプレゼント出来たらどんなにいいだろう。
・・・・・。
1000円のセレブガチャに手をかけていた。
そして、欲が出たついでに自分のも一つ買っていた。
コロン。
出て来たのは黒い丸いプラクチックのボール。中は見えなかったが、その時にズラーっと並んでいる商品は、ただ「これらの中から選べる」という選択肢として置いてあっただけだということに気付いたのであった。
そうだった。並んでいるもの全部が、中に入っていたんじゃなかった。
<でも、当たっているかもよ!>
<ケケケ・・・。>
<知〜らない!>
おのれ〜・・・・。
私の黒ボールの中身は、パワーストーンの数珠。どう見てもハズレなのだが、何故かハズレと怒れないのがパワーストーンなのである。
ガックリ。
これは中身、ほとんどが同じものなんだわ。
Tちゃんの黒ボールを振ると、カランカランと音がした。
どうしよう。
ほぼ、ハズレだわ。これ。多分。
<そんなこと、ないわよ。ガンバッテー!>
<また、来てねー>
今日、Tちゃんから携帯に「DVDが当たりました〜!」とメールが届いた。
うっそぉ〜〜〜〜。
すんごく嬉しかった。
やってよかったとホっとしたのだ。
そして、しばらくの空白があって、
「と、いうのは嘘でした〜〜!」と、書いてあったのであった。
もうガチャガチャはやらない。
Tちゃんと私は、パワーストーン数珠姉妹となったのである。