夕方、ダンボと散歩に出掛けたら、時々挨拶をする白い犬を連れたおじいさんと公園で会った。
「こんにちは」
おじいさんは明るい人だが、私のことは覚えていない。いつも初めて会う人のようにされるのだが、前回会った時は挨拶をした直後に、蝉の脱皮直前のあの気味の悪いキャラメルコーンみたいなものを、いきなり「ほれ!」と目の前に差し出されてビックリしたのだ。
今まで抜けがらしか見たことがなかったが、「ソレ」にはちゃんと目がついていて手足もモゾモゾと動いていた。もうすぐ蝉になるよとおじいさんは言っていたのだ。
多分その時の会話を忘れているだろうが、あの後あのキャラメルコーンがどうなったのか尋ねてみよう。
「前に見せてもらった蝉の幼虫は、蝉になったんですか」
そう尋ねた瞬間、おじいさんはその質問には答えずにまたもや・・・・・、
「ほれ!」
と左手に持っているものを目の前に出したのだった。
「ギャーーーーーーーーーッ!」
いきなり数匹の蝉。
手の中にはおじいさんは蝉を3匹持っていた。散歩中におじいさんが素手で捕まえたらしく、「これはメス。鳴かないからな」「これもメス」「これはオスだ」と見せてくれるのだが、その最中にも蝉がバタバタと暴れていて私は恐怖心でいっぱいだったのだ。
おじいさんは怖がっている私が可笑しいらしい。
「ほれ!」
ダンボにも見せる。
<ダンボ、食べちゃだめ>
ダンボが蝉をおやつだと思って食べるんじゃないかと、ヒヤヒヤしたのだ。
「さっきも子供にやろうと思って見せたけど、逃げて行ったよ。」
おじいさんはこの辺りで育った人らしく、自分の子供の頃を重ねて残念そうに言うのだった。
いや・・・見せ方が、いきなり過ぎるからだと私は思うのですが・・・・。
「じゃ、帰るか」
おじいさんと私は公園をあとにして歩きはじめた。
「だんだん暗くなってきましたねぇ」
おじいさんの方を振り返ると
「ほれ!」
「お前達、飛んでけ!」
と言っていきなり3匹一斉に蝉を放ち・・・
蝉達も驚いてバタバタとやみくもに飛び出した。
「ギャーーーーーーーーッ!」
こっちに来ないで。
私も4匹目の蝉となり、逃げまどう。
フラフラと蝉達は空に舞い上がって、やがて公園の方に飛んで行った。
ゆうやけこやけで日が暮れて〜。
空を見上げて日が短くなって来たなぁと思った。
いつからかつくつくぼうしが鳴くようになった。
蝉達にも私達にも、夏はもう残り少ないよとどこからともなく残暑の声が聞こえてきたのだった。