夜、家に帰って来ると玄関のところに何か物体が居るのを見つけた。
貴方は石、ですか?
・・・・。
いやな予感がした。
もしかしたら、またゴキブリ?
・・・・。
どうやらゴキブリではないらしい。
もうちょっと厚みがあって、
ブローチっぽくて・・・
うげ。
蝉だった。
最近は夏も終わりとなってきて、もうすぐ寿命を終える蝉達の「ゲゲっ」「ミィ〜ッ」「バサバサ・・」という叫びにも似た声や窓にぶつかったりする音をよく聞くようになっているのだ。
蝉に苦しいという感覚があるかどうかはわからない。だが、これらの声や音というのは聞いていてあまり気持ちのいいものではない。蝉は木の高い位置に居て手が届かないからいいのだ。もう木にはつかまっていられなくなって来ると、彼等は人間の暮らしの高さに下りて来る。急に飛んだり舞い戻ったりして来るのが私には怖いのだった。
なんでよりによって玄関の前に居るんですか。
しかもこっちを向いて。
まるで温泉宿のおかみさんに出迎えられているかのようだが、やはり蝉。
<そぉ〜〜〜っ。>
びっくりして飛んで来ないでね。
<カチャ>
そぉ〜っとドアを開けて中に入ると同時にドアを閉めた。
<バシッ>
ごめんね。
もう数日でこの蝉は一生を終えるのだろう。
でも少しの時間、空を飛ぶことが出来たんだね。
それはやっぱりすごいことだ。
明日、玄関を開けた時には居ないでくれたらいいなと思った。
「また元気になってどこかに飛んで行ったんだ」
そう思いたい私が居る。
晴れ、時々せつない。
近くに木々のある暮らしをしてから、夏の終わりになると毎年同じ気持ちになる。