総武線に乗って病院へ行く途中、東中野駅で小学生の女の子とそのお母さんが乗ってきた。
中央線や総武線の乗客は比較的庶民的なムードが漂っていて、ゴージャスな雰囲気の母娘はあまり見ないのだが、この母子は東横線でなら見かけるようなゴージャス風母娘だったので目を惹いたのだ。
そして母娘は私の座っている目の前に立った。
「でね、みさきん家はね」
女の子は友達のお金持ちの「みさき」の話をママにしているのだが、「みさき」ん家には「酸素ボックス」があるみたいなのだ。
<酸素ボックス?>
聞き間違えかなと思ったがそうではなかった。ママが「酸素ボックスなんて作らなくてもいいのにねぇ」と答えたからである。そうですよ。酸素ボックスなんて家ん中に作らなくていいですよ。というか、酸素ボックスを家ん中に作るだけの余裕があるだなんて、どれだけ広い家なのだ。
女の子はみさきん家に行ったことがあって、行ったことのないママは興味津々のようだった。うまい具合に娘からみさきん家の中のことを聞き出しているので、私も興味津々で耳を立てる。どうやらみさきん家はおじいちゃんがお金持ちで、そうとう裕福な暮らしをしているらしい。
「廊下にグランドピアノが置けるんだって」
<えぇ〜〜〜っ。それを廊下と呼ぶのですか>
が、ママの返事が私のものさしとは違っていた。
「え〜っ、じゃぁこの間見に行った物件みたいじゃん。」
「エントランスが15帖ぐらいの」
やはり彼女達はそんな物件を購入か賃貸だかで検討出来るお金持ちなのだ。ちなみに時々「広い玄関で羨ましい〜」と、言われる私の賃貸の家の玄関は2帖ぐらいである。
しかし、ママ。
ギャル言葉は品がないんじゃない?
母娘はその後新宿駅で降りていった。女の子はランドセルは普通の物を背負っていたが、片手には高そうなファーのハンドバッグを持っていて、やはりお金持ちのオーラが放たれていたのだった。
私は大人になっても酸素ボックスが家にある友達は居ない。
隣りの席の人はどんな感じでこの会話を聞いていたのだろう。
私は眠ったフリをしながら、心ん中で「どんだけぇ〜〜〜〜」と叫んでいた。